自分で言うのもなんだが、私は幼い頃から見目麗しい子供だった。父も母 も美しい人だったから、血筋なのだろう。とにかく、集団の中にいても目 立つ存在だったらしい。それは今現在もそうであり、自他共に認める事実 だ。それを過剰に意識することはなかったが、利用することは多々あった 。任務先で女を落としたり、女装するのにはちょうどよかったからだ。今 こうして、一人前の忍として任務につく前―――私がまだ、忍術学園で忍 たまをやっていた頃も、それは同じだった。自分の容姿を活かし、相手を 騙しておとしめる。実習の授業では大いに役立った。男なら可憐な女に、 女ならば端麗な男に対して第一印象で悪感情を持つ人間は少ない。標的に 合わせてその姿を変えて近付いていけば、いとも容易く相手は落ちる。己 の容姿が一番役に立つのはこういったことなのだと自覚させられる時でも ある。任務ではない普段の生活の中もその特性は有効らしかった。いくら 三禁とはいえ、くのたまの奴らに思いを告げられることは多々あったのだ 。だが私は、そんなくのたまの奴らの思いに応えることは一度としてなか った。なぜなら、彼女たちと同じように私にも所謂思い人、というものが いたからだ。誰にも話さず、長年ひっそりと淡く儚く想い続けてきた相手 が―――

(あいつは今、元気でやっているだろうか……)

私の思い人であるは、結構な男勝りだった。くのたまだとい うのに、他のくのたまたちとは大違いのざっくばらんとした性格で、忍た まである私たちとよくつるんでいた。目を閉じれば、今でも瞼の裏に映し 出されるあの頃の私たち。



「腹減ったなー!早く食堂行こうぜ!」
「今日の献立は味噌鯖定食と親子丼らしいぞ」
「あ、。くのいちも授業終わったの?」
「まあな」
……頬に、汚れがついている」
「もう少し女らしく出来ないのか、。鍛練が足りんぞ!」
「ありがと、長次。文次郎はうるさい」
「つーかよ、鍛練なんかしたら余計女らしくなくなるんじゃねぇか?」
「だな。文次郎ってばかだ」
「ああ!?」
「事実だろうが!」
「やれやれ、騒がしいことだな」



彼女はいつも輝いて、私の目には酷く眩しかった。多くは望まなかった。 ただ、同じ時を仲間達と共に楽しく過ごせるだけで十分だったのだ。



「おい仙蔵!裏々山まで行かないか?美味しい山桃が実っている木を見つ けたんだ」
「またお前そんな所まで行ってたのか?たまには綺麗な着物でも着て、町 へ出たらどうだ」
「私の性に合わんのさ、そんなことは。そういうのはお前に任せるよ、 仙蔵」
「私は男だ。まったくお前は……」
「まあそう言ってくれるな。小言は文次郎だけで沢山だ」
「ふん……それで?。山桃はどの辺りに生えているんだ?」
「こっちだ」



幸せだった。入学したときからの仲のは、よくも悪くも仲間だった 。と私たちの間にあるのは友情。それ以上でもそれ以下でもない。 もそう思っていたし、あいつらもそう思っていた。私もそう思って いたが、それ以外にもに対して恋心を抱いていた。一体のど こに惚れたのかは未だに自分でもよくわかっていない。それでも、好きだ った。一度たりとも告げなかったが、それでも私はのことを好いて いた。気付かれないように、ひっそりと。ただ思っているだけで十分だっ たのだ。町にいる生娘のように、傍にいるだけで満足できるような、今の 私と比べればあまりにも純情過ぎる恋心を抱いていた。叶わなくともかま わなかった。それで、かまわなかった。

それは、卒業が三日前に迫ったときのことだ。卒業してしまえば、一人前 の忍になり二度とに会うことはなくなってしまう。就職先は情報漏 洩を防ぐために私もも口にはしなかったが、異なる城であることだ けは確かだった。だから当然、卒業後に会うとなるとそれはつまり、敵同 士だということだ。しかしながら私がそんな当たり前のことに気がついた のは、間の抜けたことに卒業する一週間前のことだった。悩んだ。考えた 。と敵対することになるならばいっそ、思いを告げてしまおうかと 。お前が好きだ、だから忍をやめて私と一緒になってくれと言って。もし かすると、はそれに了承してくれるかもしれない。だが、本当にそ れでいいのだろうか?自分のために、己の欲望のためにに思いを押 し付けて幸せになろうなどと。自分が犠牲となるべきではないのか?自問 自答を繰り返した。ではなく私が忍になるのをやめれば、たとえ添 い遂げることができないとしてもとは気兼ねなくこれからも付き合 っていくことができる。だが、そんなことで私が忍になることを諦めたと わかったらは怒るだろう。それに就職先も決まった今、こんな今更 に思いに告げたところでも迷惑なだけだ。そう思い、口をつぐんだ 。本当にこれでいいのか、と問い掛けてくる心を押し込んで。そんな私の に対する思いに薄々気付いていたらしい長次や伊作には、いいのか 、何度もと聞かれたが構わなかった。美しい思い出は美しいままで。傷付 けないまま、心の奥底にそっとしまい込んでおきたかった。しかしなかな か忘れることの出来なかった私は、任務を詰め込み、忙しさによってその 思い出を忘却しようとしていた。にもかかわらずその未だ、忘れることも 出来ずにいる私は今、こうしている。桜の花びらが舞い散る中、そんな思 い出に思いを馳せていた。なぜ今になって思い出したのだろう。あれから 三年がたったというのに。我ながら女々しくて、自嘲する。ああ――――、













最後の日を夢想する