と、再会した。つい先日、との思い出に思いを馳せていたか らだろうか。は記憶の中と寸分も違わず、相も変わらず美しい黒髪 を風にたなびかせながら泰然と立っていた。それは、戦場での再会だった 。私がいる城とがいる城の関係は、一年ほど前から軋轢が生まれ始 めていた。もしかしたら、と覚悟をしていたのでいつかはこうなると思っ ていたが、それはあまりにも唐突だった。ほんの些細な亀裂が、あっとい う間に総戦力での戦へと発展させていった。休日にいきなり呼び出された かと思うと、装備もそこそこに戦場へと放り出された。生き残るための準 備など何も施されていない、ただ敵を殺戮せよと命ぜられた。やはり忍は 使い捨てと認識されているのか、と改めて思う。そのことについて特に不 満は抱かない。そんなこと、とうの昔に思い知らされている。だが、名前 も姿も過去も、未来さえ消さなければならないことを少々寂しく思うこと もある。己の姿を視認させないよう敵兵の間を縫うように駆け、その命を 確実に刈り取っていく。その最中に、ふと背後に足軽とは違う忍の気配を 感じ取り、くるりと振り向いた。視線の先には、彼女がいた。目を見開く 。周りに怒声や悲鳴、斬り合うが響く中、私と彼女の間だけ時間が止まっ ているかのようだった。騒がしいはずの音は遠ざかり、静寂に包まれる。 どくん、と心の臓の音がやけに響いた気がした。見つめあう。が、 その血のように朱い唇をゆっくり開く。



「久しぶりだな、仙蔵」
「……そう、だな」
「いつかは、こんな風に再会するんじゃないと思っていたよ」



皮肉な事に、こうしてかつての仲間と戦場で再会するのはが初めて であった。これが、戦場でなく町や野道であったのならば、刃を交えるこ ともなかったろうに。運命の、なんたる残酷な事か。ああ、恨めしや。だ がは私と出会ったというのに、その表情や瞳の色に変化はなかった 。一人の忍として、感情の抑制は完璧だということか。それとも、私など 取るに足らない存在だということか。チリ、なにかが引き攣る。



「悪いが、相手がお前であろうと手加減はしない」
「当たり前のことを」



ふっと一陣の風が吹くと同時に、私たちは動き始めた。風を切り、疾る。 苦無や手裏剣などの飛び道具を投げ、同時にそれを避けていく。自身の得 物である火器類を使うことはしなかった。もしかしたら―――いや、もし かしなくてもまだ私はのことが好きなのだ。だからに対して 本気に、非情になれない。好きな女の肌を火薬で爛れさせるなんてこと、 到底できるはずもないのだ。感情を捨て切れない自分を叱咤する。これは 任務だ。余計な私情を挟むな、考えるな、消してしまえ。そんなことを思 いながら走っていると、どんどん戦場から離れているのがわかった。手持 ちの飛び道具が少なくなってきたころ、互いに足を止めた。右手には谷底 、左手には森。どこかで鳶のなく声が聞こえた気がした。じりじりと間合 いを詰めながら、機を窺う。は私の思い人。それは今も続いている 。わかっている。だけれども、もう手を抜く気はなかった。と相対 しながら走り続けている間に決心がついた。と真剣に戦おうという 決心が。今までの私は、に対して酷く礼儀を欠く行動をしていた。 好く相手だからこそ、そんな態度をとることは私の矜持が許さない。それ に何より、ここでを殺さなかった……殺せなかったとして、その結 果が自分の知らないところで知らない誰かによって殺されてしまう のが嫌だった。それならばいっそこの手で、と。なんと自分勝手な。は、 と思わず自嘲の笑いが込み上げる。は私のそんな顔を見て顔を歪め た。お互いに、何も言わずに刃を交えた。キィン、と金属独特の不快な音 が響く。暫くはそれが続いたが、やはりそこは男と女。力の差によって は足を滑らせ、



「ッ!?」
「―――ッ!」



谷底へと、落ちた。この高さ。地面に叩き付けられれば、助かる可能性な ど限りなく低い。ああ、これでは……。容易に想像できる。ひしゃ げた腕。潰れた顔。飛び散る赤。物言わぬ、骸。

―――何かが、私の中で音を立てて崩れていった気がした。













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