「今日こそ咬み殺す」
「やれるものならね!」



今日も始まる雲雀との鬼ごっこ。
頭に"命がけの"という文字がつくけどね。


いつもならそれに付き合うんだけど、今日はちょっとばかりわけが違う。
母上殿から5時までに帰れと命令が出ているのだ。

私の母は、結構厳しい人だ。
別に成績を上げろー、勉強をしろーと口うるさいわけじゃない。
事実、あたしが勉強もせずに空いた時間で商店街の実権を握った時だって、
「馬鹿な事だけはしちゃだめよ?」
と一言で終わらせてしまった。それでいいのか、母親!

しかし、一度交わした約束や社会の基本的なルール、マナーには結構厳しい。
母曰く、 「最低限必要なことだけはしっかりと習得しておきなさい。生きていく上で必ず役に立つわ。 なんにでもチャレンジしていきなさい。ただし、迷惑だけはかけないこと」だそうだ。
我が親ながら、なんだかなあ……



ちなみに母はあたしの反射神経を上げたのにも一役買っている。
まだあたしが幼いころ、マナーをしっかりと身に着けさせようと努力していた。
古今東西あらゆるマナーを、そりゃもうスパルタで。
覚えたマナーを間違えたり、忘れていたりする度に銀食器 (特にナイフだとかフォークだとかのの尖ったものばかり!)が飛んできた。
幼いころからそんなものを必死に避け続けたせいか、反射神経だけは天下一品だ。



っと話がそれたけど、とにかく今日は早く帰らなくちゃいけない。
雲雀に付き合っている暇なんてまったくない。
特に今は放課後。
この後授業があるわけでもないので、一度雲雀に捕まれば厄介なことになるだろう。 ……あいつ、足が異様に速いから撒くのが大変なのよね。



「ごめん、ちょっと隠れさせて!」



手ごろな教室に転がり込み、雲雀をやり過ごす。
まだ教室には数人の生徒がお喋りを楽しんでいたけど、いっこうにあたしのことは気にしていない。
すでにあたしと雲雀の関係は全生徒……いや、教師も知っている。


じっと教卓の裏に隠れて息を潜める。
足音が遠ざかり、そろそろ大丈夫かな?と思ったとき……



「ねぇ、がどこに行ったか知らない?」



戻 っ て 来 や が っ た !
野生の勘!?
肉食動物特有の勘ですか!?

雲雀ってば無駄に勘がいいからなあ……
この前も隠れてたらすぐに見つかっちゃったし。



「ねぇ、聞いてるんだけど」
「は、はい!知りませ「隠し立てすると、咬み殺すよ?」
「はい、此処に居ます!」



うおぉおおい!
バラすなよ!せっかく隠れてたのに!
畜生!みんなで一斉にこっちを指差しやがって!
そんなに雲雀が怖いというのか……?



「こんなところに隠れてたんだ、
「………」
「僕をやり過ごそうだなんて、いい度胸じゃないの。……咬み殺す」
「ああ、もう!今日は急いでるのにー!」



雲雀にじゃなくて、母さんに咬み殺されるよ!
相当な覚悟しておかなくちゃ、なぁ…………はぁ。
憂鬱だ………













「はい、此処に居ます!」
(タダイマ、4時48分……)