そもそもあの雲雀恭弥との出会いというのは、半年前の3年に上がる前の春休みにまで遡る。
遅れてしまった課題提出のために学校に行ったところ、声をかけられたのだ。



だな?委員長がお呼びだ。至急応接室まで行け」
「はい?」



唐突に風紀委員に声をかけられた。
それまで私は――自分で言うのもなんだが――それなりに優等生だったから、
風紀委員なんていう不良集団に関わることなんてなかった。
なのでちょっと……いやかなり、驚いた。



「あの、風紀委員長がいったい私に何の用なの?」
「行けば分かる」
「………」



と、いうことでなぜだか知らないが私は雲雀恭弥に会うことになってしまったのだ。








「失礼しまーす」



問答無用で連れてこられたおかげで、ちょっと機嫌が悪い。
ノックもせずにいきなり開ける。もちろんわざとだ。



「……ノックぐらいしたらどうなの、
「すみませーん。配慮が足りませんでしたー」
「……馬鹿にしてる?」
「まさか!天下の風紀委員長様相手にそんなことできませんよー」



そんなことより、私はさっさと家に帰りたいのだ。
せっかく宿題のない春休みだというのに、こんなところで時間を潰されてはたまらない。



「ところで、いったい私に何の用です?」
「君……商店街を勝手に自分のものにしたでしょ。恐ろしいほど迅速にね」
「まあ、そうですね」



数日前まで雲雀の配下にあった商店街を、ちょっとした遊び心で掌握したのだ。
迅速っていうのは、途中で課題提出を忘れていたのに気がついたからさっさと終わらせてみただけだ。



「並盛は僕の所有物だ。勝手に荒らすことは許さないよ」
「別に荒らしてなんかないけど」
「………咬み殺す」



どこからともなくトンファーを取り出した雲雀。
ていうか、納得いかない相手には"咬み殺す"かよ!
我慢を覚えろ、雲雀恭弥!



「ちょっと!暴力反対なんですけど!」
「関係ないね。大体、僕の所有物に先に手を出したのはそっちでしょ」
「そりゃまあ、そうですけ、っど!」



繰り出されたトンファーを、ダンスのステップの要領で軽く避ける。



「君は……咬み殺しがいがありそうだ」
「そりゃあ、どうもっ」



右、左、上、左と変則的に打ち出される打撃に、わざと紙一重のところで避ける。
こうやって避けると、相手が焦れて隙が生じる……はずなんだけど、なあ。



「委員長、愉しそう、です、ねっ」
「この頃ずっと、弱い草食動物ばかり相手にしていたからね」



草食動物って何さ!わけわかんないよ、委員長……
人間はどっちかっつーと雑食だっての!



「ねえ委員長!ちょっと賭けでもしません?」
「賭け?」
「私を一発でもトンファーで殴ることができたら、商店街をお返ししますよ?」
「くだらないね。そんなことせずとも、今ここで君を咬み殺せばいいだけのことだ。」
「委員長には、無理です、よ!」



そう、雲雀が私に対して攻撃を始めてからすでに5分近く経過しているが、
いまだに一撃も――掠りさえもしない。
このままではお互いに体力を消耗するだけで、埒が明かない。



「ね、委員長!ここはひとつ、協定を結びましょう!」
「………いいよ。しょうがないからね。
 それに、時間をかけながら追い詰めるというのもたまにはいいかもしれない」



雲雀もこのままではキリがないと悟ったらしく、それまでの猛攻がピタリとやんだ。
もちろん、素直に従うのは嫌らしく最後にトンファーが飛んできたが。
―――まさか投げつけてくるとは思わなかった…ちょっとばかし危なかったよ!



「そのかわり、明日から覚悟しておきなよ?
「………」



自分で持ちかけたこととはいえ、明日から面倒なことになりそうだ…
選択を間違えたかな……?













ああ、こういう人いるよね。
(超理不尽な凶悪風紀委員長殿)