―――憂鬱だ。
今日のオレは、いつも以上に気が重い。
原因は言わずともわかるだろう……リボーンだ。

朝、いきなり叩き起こされたかと思うと、何の気無しに銃を渡された。



「リボーン!こ、これなんだよっ」
「見りゃわかるだろ、銃だ」
「そんなこと聞いてないし!」



絶対分かってて言ってるよ、この家庭教師!オレの人権はどこへ!?

だけどリボーンは騒ぐオレを完璧に無視して話を進めていく。
だから、オレの話を聞けっての!



「マフィアのボスになるんだから、銃ぐらいは使えて当然だ。 だが、武器を使うにしてもまずはその感覚に慣れねぇとな。今日一日、そいつを身につけておけ」
「何だよいきなり!い、いらないよ!返すっ!」



こんな物騒なもの持ち歩けるわけないよ!
第一銃刀法違反だし、オレはマフィアのボスになんかならないって普段から言っているのに。
リボーンはいつも唐突で、理不尽だ。
まあ、慣れたけどさ……。

ジャキッ



「うるせぇ。つべこべ言わずに、とっとと学校にでも行きやがれ」



心の中でどれだけうだうだ呟いたところで、毎度のごとくこの赤ん坊に逆らえる訳もない。
しかたがないのでしぶしぶと、銃を鞄の奥底へと忍ばせた。

―――別に、リボーンがいなくなった後に部屋に置いていくことだってできた。
でもそれだと、母さんに見つかる可能性もあるし(母さんのことだからおもちゃと勘違いしそうだけど) ランボが持ち出して(その結果またリボーンを暗殺しに行ったり部屋をめちゃくちゃにして) リボーンにバレてしまう可能性だってある。

もしもバレたら、また厳し過ぎるスパルタ授業が待っているんだろうな……。
ああ恐ろしい!


そんなこんなでオレの気は重い。
肩に下げた鞄はもっと重い。


(ま、まあバレなきゃいいんだもんな)
(普通にしてれば他人の鞄を勝手に覗く奴なんていないだろうし、大丈夫!……だよ、な?)


そう思って油断してたのがいけなかった。

なんと言ってもオレはダメツナだ。
運動もダメ、勉強もダメ、普段からドジばっかりのダメダメツナだ。
何もしなくてもなにか起こすのがオレだ。

―――うん、コケた。

教室の戸のサッシに足を引っ掛けて、べちゃっと。
顔面ダイブ。
朝から注目度抜群だ。
嬉しくない。



「十代目ッ、大丈夫ですか!」
「スゲー転び方だったけど、怪我してねぇか?ツナ」
「いたたた……。大丈夫、二人ともありがとう」



コケたオレにすぐさま駆け寄ってきて、心配してくれた二人にお礼を言って立ち上がった。
まったく情けないにもほどがあるよな、オレ。
中学生だってのに顔面ダイブで転ぶなんてさ……。

はぁ、と身体についた埃を落としながらため息をつく。 あーあ、鞄の中身ぶちまけちゃったよ。
その時、席に座って本を読んでいたさんが近づいてきた。



「おはよう、沢田」
「あ、おはようさん」



やっぱりさっきのさんにも見られてたよなぁ。
獄寺くんとかならともかく、クラスの女子に見られてるって恥ずかしさ倍増だよ……。
またダメツナって馬鹿にされるんだろう。
目の前のさんは無表情だから何考えてるのかはよくわかんないけど。



「さっきあんた、これ落としたわよ」
「これって……あああありがと!」



さんが手に持っていたものを見て驚いた。
まるで転がっていた消しゴムでも渡すかのような気軽さで、さんはこれ――銃を渡してきたんだ。

一日隠し通そうと思ってたのに早速バレたし!
早過ぎるだろ、オレ!
ま、まぁバレたのが京子ちゃんや黒川とかじゃなくてさんだったからよかったけど……。

他には誰にも見られてないよね!?と、思わず教室内をキョロキョロと見渡してしまう。
そんなオレの姿を不思議そうに眺めながら、さんは口を開いた。



「にしても……どうしたのよ。沢田って銃を持ち歩かないじゃない」



護身用?だったらもっと違う型のが良いと思うけど……。
続けるさんに慌てて首を振る。

違う違うって!
護身用だとしてもアメリカじゃないんだから普通持ち歩かないよッ。
銃刀法があるんだし!



「ふーん?あ、それともとうとう銃の魅力に気付いたってわけ?」
「ち、違う違う!ただ朝リボーンに無理矢理持たされただけだよ! ――リボーンの奴、オレが銃を使えないこと知ってるくせに、なんで持たせるんだか……」
「あら、沢田まだ教わっていなかったの?銃のこと」
「お、教えてもらわないよ!そんな銃なんかのことッ」



ムリムリ!
否定するのに一生懸命だったオレは、オレの言葉にさんがピクリと眉を動かし反応したことに気が付かなかった。



「銃"なんか"……?」
「そう!だってオレ、マフィアのボスになるつもりなんてこれっぽっちもないのに、 銃のことなんかを教えてもらっても困るだけだし!」



日本の一般男子中学生はそんなこと知らないのが普通だよね。
銃なんて危険極まりないし。
いらないいらない。 うんうん。



「沢田」



呼ばれる声にふと顔を上げると、そこにはすっごくイイ笑顔のさんがいた。

な、なんかやばい?
もしかして。

ねっちょりとオレのことを扱くリボーンと同じ雰囲気だ。
ぶるり、と思わず身震いを起こす。
がたッと音がしたので振り向くと、そこには顔を青くした獄寺くん。

わぁ、ビアンキに遭遇した時みたいだ。すごいなぁ。

なんてちょっと現実逃避してみるけど、現状は変わらない。
ぎぎぎ、と固まる身体を反転してさんに視線を戻すと、にっこりと笑っている。



「沢田?あんたとは一度じっくりと話し合う必要がありそうね」
「いいい、いいよ!そんなの!」
「遠慮することはないわ。さ、まずは銃の利便性とその重要性についてレクチャーするわね」
「必要ないってば!」
「ああ、そうそう。逃げ出そうものなら身体に直接、銃がどんなに役立つかを教えてあげるわ」
「ひぃぃーッ!!」



なんか恐ろしいことをさらりと言っちゃったよ!?
怖い怖い怖いって!

頼みの獄寺くんは顔を青くしたまま固まって動かないし、山本は山本で脳天気に笑ってるだけだし……。
ああああもうッ、どーすりゃいいんだよ!













……さらりと怖いことを言うし。
(迂闊に他人の武器を馬鹿にしないように気をつけないと……)