あたしの名前は西園寺梨々香。
良い名前でしょ、お父さんがつけてくれたの。

でもそのお父さんと今は会えない。


だってあたし、違う世界に来ちゃったみたいなの。


気がついたら全然知らない場所にいて、驚いたし怖かった。
こんなことが起こるだなんて、まさか夢にも思わなかったし。
でもね、あたしが来たのは戦国時代なんだけど、キノコみたいな名前のお城がいっぱいあって、すごく楽しい所なんだよ!
パラレルワールドって、いうんだっけ?
過去にタイムスリップしたんじゃなくて、違う世界に来ちゃったみたい。
すごく不思議なところなの。

ここに来て初めて会ったのが忍術学園っていうところの学園長先生でね?
(忍者になるための勉強をするところなんだって。びっくりだよね!)
あたしの話を聞いて、しかも信じてくれたすっごくいい人!
もちろん学園のみんなも優しくて、寂しくないって言ったら嘘になるけど、でもここの生活は楽しくて大好き。

それにねそれにね、秘密だけど……好きな人もできたの!
彼はあたしより年下で、まだ挨拶ぐらいしかお話したことはないんだけど……
でもあたしは彼――綾部喜八郎くんのことが大好きなの!(言っちゃった!)



* * *



喜八郎くんと初めて会ったのはここに来てから5日後のこと。
それまでは、彼のことなんかちっとも知らなかったの。
どうしてかわからないけど4年生の人とは会わないのよね。
ちょっと残念。

それで、喜八郎くんが掘っていた穴(たこつぼっていうんだっけ?)をよく見つけてたんだけど、
それが何なのかよくわかんなくていつも見かける度に不思議に思ってたの。
そうしたら、留くんが一生懸命その穴を埋めているところを見つけて 「何してるの?」って聞いたら喜八郎くんの名前を教えてくれてね。
それだけ穴を掘っている喜八郎くんのことが気になって、気がついたら彼のことばかり探しちゃった。えへ。

でねでね、ある日4年生の長屋の井戸で彼を見つけたの!
彼を初めて見たときあたしはこう思ったわ、まるで王子様みたい!って。
だって彼はすごくかっこよくて、綺麗で、キラキラしてたんだもの!
多分あたしは一目惚れしちゃったんだと思う。

小さなころからずっとずっと夢見てた、あたしだけの憧れの王子様。
もちろん、現実には王子様なんかいないってわかってたけど、ここはあたしの知っている世界じゃないもの。
もしかすると、王子様だってここにはいるかもしれないじゃない?
だからね、喜八郎くんこそがきっとあたしの王子様なんだよ、きっと!
ううん、絶対。

それでね、王子様とお姫様はお互いに運命の相手に出会って、愛し合うの。素敵でしょ?
お母さんだって言ってたもん。


「梨々香ちゃんにも運命の人が現れるかもしれないわよ」って!


そんな中で出会った喜八郎くんは、あたしの運命の人なんだよ。
ビビビッて、何か感じたの。えへへへ。


あたしの運命の王子様に出会えたことがすっごく嬉しくて、話しかけようかと思って近くに行こうかと思ったんだけどすぐにどこかへ行っちゃった。
残念……。


でもねでもね!
次の日朝長屋に行ったらやっぱり井戸の近くにいて、おはようって言ったらおはようございますーって返してくれたの!
すっごくすっごく嬉しくて、その日はずーっとにこにこしてた。
そのあと暫くは探しても全然見つからなくて、ちょっと悲しかったけどね。
それでね、なんでこんな話をしているかっていうと……今!目の前に!

喜八郎くんがいるのです!



「ああああの!喜八郎くん!おはようございます!」
「………昼だけど」
「え、えと、こんにちは!」



やだもー、目の前にいるから焦っちゃった。
ど、どうしよう……絶対変な子って思われちゃったよね!?
「……梨々香、さんに紹介したい人がいるのだけど」
ああもう!か、髪型とか、変じゃないかな?
大丈夫だよね?
何で会う時にかぎってこんな格好してるんだろう、もう!
おばちゃんの手伝いしてたから割烹着だし、髪も適当だし……。
……です。はじめまして」
もっとちゃんとオシャレしてから会いたかったよぉ。
でもここって、楽しいけどオシャレの道具が少ないから残念だな……。
スキンケアの道具がないとか、信じらんない!
アクセも簪とかぐらいで、ピアスとかもなんにもないし。
「じゃあ、これで」
髪縛るのだってゴムじゃなくて紐使うからやりにくいし、簪の刺し方もよくわかんないし。
白粉はファンデーションと違ってなんか変な感じだし……。
やだなぁやだなぁ。
こんなんじゃあ全然可愛くないよ。
あ、でもこの時代じゃそれが当たり前なんだし、大丈夫、だよね?
おかしくないよね?


ちらり、と今まで伏せていた目を上げると、喜八郎くんはいなかった。



「え、うそ!?」



やだ、あたしがもんもんと考えている間に呆れてどっかに行っちゃった?
折角の貴重な時間だったのに……。

もう最悪!



「梨々香さぁん!食堂のおばちゃんが呼んでましたよー!」
「え、うそ!……あ、休憩時間もう終わってるみたい」



食堂に急がなくちゃ!
名残惜しく振り返りながらその場を後にする。
あーあ、せっかく喜八郎くんに会ってしかもお喋りまでしてたのに!
うう……残念。

次会う時にはもっといっぱい話せるといいなぁ。


喜八郎くんに会う。
ただそれだけで、あたしは幸せになれます。
だってあたしは恋してるもの!

とりあえず目標は挨拶以外のお話をする、ね!
なんと言っても相手はあたしの王子様なんだから!













甘やかな片想い