「彼女」が学園からいなくなった。


出ていった。
追い出した。
どこかヘ消えてしまった。

もしかしたらすでに忍たまの誰かに殺されたのかもしれない。
この戦乱の世だ、万が一うまく生き延びたとしても16を過ぎていては今更奉公先を見つけるのも楽ではない。
人買いに売られるか、よくて仏門に入るしかないだろう。


そんなことはどうでもいいのだ。
どうなったにせよ、「彼女」の姿を見る機会はもう二度と訪れないだろう。
結局、私たちが手を下すまでもなく学園が行動していたのだ。
「彼女」を学園は元から受け入れていなかった。
「彼女」は学園長にいいように利用された。
学園長にとってのいい暇つぶしでしかなかったというわけだ。

私たちがしようとしていたことは何だったのか。
まったく、無駄骨もいいとこだ。

「彼女」がいなくなっても、学園にこれといった変化はなかった。

例えば1年生。
特には組はあれだけ「彼女」に懐いていたにも関わらず、沈んだ様子は一切ない。
何時もと変わらぬ姿ではしゃぎ回っていたし、「彼女」についてを話していることもなかった。
2、3年生にも変わった様子はない。
もとより先輩に遠慮してあまり近寄れていなかったので、接点が少なかった彼らとしてはまあしょうがないのかもしれない。

一番「彼女」に対して執着を見せていたであろう立花仙蔵ら6年生や、
よく「彼女」と一緒にいるのを見かけた5年生にも変化はがなかったのは予想外だった。

彼らは「彼女」がいなくなったからといって「彼女」を捜したり、いなくなったことについて嘆いたりすることもなかった。
まるで「彼女」が最初から存在しなかったかのように。

彼らも上級生。
自分達が試されているということをすべて理解した上での行動だったということだろうか。
最後まで、彼らの真意はわからなかった。

忍たま以外、つまり事務員である小松田さんはドシをしながら事務仕事をこなしているし、おばちゃんも相変わらず一人で食堂を切り盛りしてる。


なにもかも、なにもかも私の願いと同じく元通りになった。
まるで「彼女」がいた数カ月間は夢かなにかのようだった。


結局は、私一人で焦っていただけなのだ。
「彼女」という異物が入り込んだことで、自分の居場所が失くなってしまうんじゃないかと畏れて。
奪われてしまうんじゃないかと恐怖に駆られて。

まあ、それはすべて杞憂に終わったのだけれど。
冷静に辺りを見ていれば、そんなことはないのだと理解することもできただろうが。
私は、過去の自分を見ているようで怖かっただけ。
今思えば、笑ってしまうくらい滑稽でもあった。
必死になって、自分の居場所を守ろうとしていたのだ。




「……喜八郎」



そういえば、みんなにも迷惑かけたな。
何時もと違う様子を見せて、ひどく心配をかけてしまった。

けれど、「彼女」ではなく私を選んでくれたことはとても嬉しかった。
みんなが私でなく「彼女」を……いいや、学園も含め全員が「彼女」を受け入れていたら、そう思うとぞっとする。
私は「彼女」が居続けることに、おそらく堪えることなんてできないだろうから。
だからきっと、そのもしもがあったのならば私はここに存在してはいなかっただろう。
今の「彼女」の立場と私の立場が逆転することだって有り得たのだ。

存在すらなかったことにされてしまった「彼女」

けれど同情なんてしない。
憐憫する気もない。
だって私は確かに、今、ここに存在しているのだから。

結局、自分さえ良ければそれでいいのだ。
人間なんて所詮はそんなもの。



、滝たちが呼んでる。一緒に団子食べようって」
「いま行くよ」



ああ、今日も学園は平和だ。













私はまた君に救われる