「天女様天女様、来てくれたんですね!」



時間通りに指定場所へ現れた天女様。
よかった、これで第一関門は突破だ!
天女様が来なかったら、殺すどころじゃなくなっちゃうもの。



「あなたが、あの手紙を書いたの?」
「そう!話し掛けたくても先輩とかがいっぱいいたから無理だったんです。だから」



先輩方のいない今日を狙ってあなたを誘い出したんですよ、天女様。
天女様を殺すために。



「そうだったの。ごめんね?気付いてあげられなくて。それで……町へお出かけ、する?」
「はい!行きましょう行きましょう!」



やったねやったね!
天女様はちゃんと来てくれたよ。
ふふふふふ、これで天女様を殺せるね。
それにしても天女様は噂通り、疑うことを知らないみたいだ。
俺と初めて会ったというのに、ちっとも警戒心を抱いていないんだもの。
これじゃあ生まれたばかりの子猫のほうが警戒心が強いんじゃないかな?
天女様は畜生以下だね。
ダメだなぁ、そんなことじゃあこの時代、生きていけないよ。
ああでもこれから俺に殺されるんだし、どうでもいっか。
勝手に他人のことを信用しきっている天女様が悪いんだよね!
ふふふふふ、馬鹿みたい。



「天女様天女様!こっちに来て下さい。美味しい果実のなっている木があるんです!」
「わあ、本当に?行きたい!」
「こっちですよ!」



疑うことを知らない天女様。
純真無垢な天女様。
もうすぐ死んじゃう天女様。

簡単だな。
こんなにもあっさりと終わっちゃう。
もう少しで孫兵を泣かせた諸悪の根源を消せるんだ。

ねぇ天女様?
俺は天女様が孫兵を悲しませなければ、あなたを殺そうとなんて思わなかったんです。
だってあなたには一片の興味すら抱いていなかったのだから。



「天女様」
「なぁに?くん。あ、その"天女様"じゃなくて、名前で呼んでくれないかな?
あたしの名前はね、※※※※※っていうんだよ!」



天女様が名前と思しき言葉を吐いてる。
でも何を言っているかなんてわからない。
聞こえない。

だって天女様、今から死ぬんだもの。
関係ないでしょう?

これ以上関わることのないことに脳の容量を使いたくないし。
目の前の、麗しいなんて言われてる女のことなんて。

だってさ、そんなこと俺にとって



「どうでもいいもの」
「え………?」



そうこれは、悪者退治。



* * *



あかくあかくあかく、アカアカアカアカ。
あかぁく染まった地面。

辺りにはむせ返るぐらい濃厚な血の香り。

目の前には、天女様だったモノ。

ただの肉の塊。

あーあ、天女様、死んじゃった。
あっけなかったな。
苦無で一刺し。
それだけでみるみるうちに血が溢れていって、死んじゃった。

その時の天女様の顔といったら!
まるで信じられないものを見たかのような顔。
その顔のまま倒れちゃった。

醜い顔だなあ、どこが麗しいのかちっともわからないよ。
手をもいで足をもいでぐちゃぐちゃに嬲り殺すことが出来なかったのは残念だけど、まあしょうがないよね。
誰かに見られでもしたら困るもの。

あ、そうそう。天女様っていうぐらいだから、刺しても死ななかったり、
死んだときに光になって消えちゃうのかな、なんて思ったんだけど、そんなことは全然なかったんだよ!
普通の人間と一緒、血を流して死んじゃった。
そこには骸が残るだけ。

なぁんだ、天女様っていうのはやっぱり嘘だったのか。
この嘘吐き!

そう思ってさらに喉へとひと突き。
まだ暖かい血がどぷりと流れ出す。

あ、血が付いちゃった。
気持ち悪いなぁもう。

顔をしかめる。
これだけ濃く血の香りが漂っているんだもの、狼や熊がすぐに来て屍体を喰らってくれるよね。
証拠は何も残しません。


さぁて、帰ろうかな。
悪者退治はおわったもの。
孫兵が待っている学園へ帰ろう!

明日からは、天女様もいないいつも通りの学園に戻るんだ。
あんな雰囲気の学園はもうまっぴらごめんだね。
それを元に戻した俺は偉い。

ふふふふふ、みんな喜んでくれるかな?
嘘吐きで贋物で偽者の天女様を殺したんだもの。

悪者はやっつけたよ!

はやく学園へ帰ろうっと。
鼻歌なんか歌いながら、足取り軽やかに山を下っていった。
今から帰るよ、孫兵!



* * * * *



こんにちは、新しい世界。
こんにちは、新しい箱庭。

前の箱庭はあっさりと部外者に壊されてしまったけれど、もう大丈夫。
今度のは丈夫だよ、絶対に壊れない。

君と僕だけの世界。

ぴかぴかぴかぴか。
光り輝いている。

ふわふわふわふわ。
優しくて柔かい。

もう誰にも邪魔させない。
部外者は消してしまったからもういない。

今度は必ず守り通してみせる。

君と僕の小さな世界。
君と僕の、小さな箱庭。













行方知らずの女