それは3年生になって夏を迎えようとしていたときのこと。

が学園長のお使いで遠方に出ているときに、突然学園に天女様が来た。
空から降って来たという天女様を初めて見たとき、その名に相応しく美しいと思った。
人間に対してこんなことを思うのは、以来かもしれない。

それぐらい、天女様はすごく綺麗だったんだ。

その天女様が忍たま達の目の前で自分の事情を喋っている最中、は天女様のことをじっと見ていた。
いつもなら他人のことなんて気にもしないが、だ。

―――やっぱり、も綺麗な人の方が好きなのかな。

ぼんやりと天女様を見つめているを見ながらそう思う。

普通はそうだろうな。
醜悪なものよりも美麗なものの方が好まれるのは世の道理というものだ。
他の俗物的な人間達とが同じ思考回路を持っているとは思わないけど。

でも、僕も天女様のように綺麗に、美しくなりたいと思った。
他人を羨むなんて今までなかったことだけれど、
天女様のようになればがもっと僕のことを好きになってくれるかもしれない。

羨望と僅かな嫉妬の眼差しを天女様に向ける。

そうだ、今度天女様にどうやったらそんなにも綺麗になれるのか聞きに行こう。
なにせ相手は神の国からやって来た天女様だから、なにか特別な方法を伝授してもらえるかもしれない。

その時はもちろん、じゅんこも連れて。
だってじゅんこも女の子なのだから、綺麗になりたいだろう。
天女様ならきっとその方法だって知っているだろう。
人間だけでなく、すべての生き物達が美しくなれる方法。
そうすれば僕も、あんな風に……。



* * *



様子をみて、天女様のところへじゅんこと一緒に会いに行った。
天女様は人気があってなかなか近付くことが出来なかっけど、なんとか話す機会を得ることが出来た。
上機嫌に、じゅんこを伴いながら廊下を歩く。
天女様ならきっとじゅんこの美しさについて褒めてくれるだろう。
そうしてじゅんこを紹介したら、綺麗になれる方法を聞こうと思っていた。
なのに―――

「気持ち悪い!」
「いやだ!」
「こわい!」

天女様は逃げて行った。
嫌悪感をいっぱいに、その端正な顔を歪めて。

信じられない。
悲しかった。
哀しかった。

家族を否定されることは、何よりも苦しい。
忍術学園にいるのももう3年目で、揶揄されたり陰口を叩かれることも少なくなっていたから、よけいにその衝撃は深かった。

だって人間ならともかく、天女様に、神に家族を否定されたのだ。
同級生に茶化されたのとはわけが違う。

わんわんとみっともなく、まるで幼子のように泣いてしまった。
2年生のころのようにに泣きついたら、は優しく慰めてくれて
「じゃあ天女様、消しちゃおうか」と言ってくれた。

驚いた。
だって人間なんかよりも遥かに偉いはずの天女様を殺してしまおうと言ったのだから。

嬉しかった。
だっては、天女様よりも僕を選んでくれた。迷うそぶりなんて微塵もなく、いともたやすく。


やった。
やったやったやった!
やっぱりが大好きだ!
は僕を裏切らない。

やっぱりが1番、大好き。

「孫兵を泣かせた天女の名を語るあの女を許さない」だって!

嬉しいなあ。



* * *



秋になって、は天女様を連れて町へ行った。
こっそりと、誰にもバレないように。

これで天女様はいなくなる。

だって帰ってきたは一人で、天女様の姿なんてどこにも見当たらなかったんだもの!
それに、は僕を抱きしめて


「天女様は神の使いなんかじゃなかった。ただの人間だったから、動物達の餌にしてきちゃった」


って言ってたから、安心。
明日には噂を流しておこう。

『天女様は使命を果たしたため、無事神の国へと帰っていきました』って。

これで、めでたしめでたし。













二人乗りの地球