「逆ハー主人公」というのを、ご存知だろうか。
どんな状況下にあろうとも、あらゆる男から好かれる女のことを指し示す言葉だ。
つまりはハーレムの女バージョン。

そんな「逆ハー主人公」と呼ばれる種類の人間が、俺の周りに1人いた。
そんな漫画みたいなことがあるわけないじゃないか、と思うかもしれないけど事実なんだから仕方がない。
その名も、藤本由香里。

俺は、そいつに――――殺された。





なんて物騒な言葉で始めたわけだけど、俺は今ちゃんと生きている。
転生ってやつですよ。ええ。


なんで殺された俺が生きているか。まずそこから説明しようと思う。
典型的な逆ハー主人公の藤本由香里に殺されたわけだけど、べつに直接危害を加えられたわけじゃない。
藤本由香里に心酔していた男の、盛大な勘違いから生まれた嫉妬によって恨まれ、そしてそいつに刺されて死んだわけだ。

そいつは俺を刺した直後に車に撥ねられ死亡。
もちろん人殺しは即地獄逝き。
そもそもの原因であった藤本由香里はそんな事件があったことも知らないままに平和に暮らしている。
マジふざけんな。

え、恨む相手が間違ってる?
俺を刺したやつを恨め?

ムリムリ。
だってそいつ、もう地獄逝ってんだぜ?
俺が恨まなくても、とっくにえげつない罰を沢山受けてるって。

だから俺が恨むべき相手は藤本由香里。
こいつがさっさと恋人でも作っておいてくれればあんな誤解が生まれることも、俺が刺されて死ぬこともなかった。そういうわけだ。

ところで、死んだはずの俺がどうして男が地獄に逝ったとか藤本由香里の現在の状況を知っているか。
………知ってるか?人間って死ぬと、マジで幽霊になるんだぜ?

俺も最初はマジビビった。
なんせ刺された!って思ったら、いつの間にか空中をふよふよ漂ってたんだよ。
いやこれ本当だから。

それでそのまま空中浮遊しながらその後の状況を観察して、4日前くらいにお迎えがきた。
そして現在、俺の目の前には神様がいる。
意外と普通の恰好と容姿だ。



「あーそれはさ、面倒だからだよ。そんな感じにしてるとみんな」

そんでもって結構フランクだ。
というか神様、俺の心ばっちり読んでるよね?読んでますよね?

「まあ、神様だしね。それにしても君、可哀相だねぇ」

あ、やっぱりそう思います?

「思う思う。まさかあんなことで人生終わるなんて普通考えつかないもん」

ですよね。
あーやっぱりムカつくな、あの女。呪い殺してぇ。
そーいうの、出来ないんですか?

「無理無理。一応神様だし?殺生はご法度なんだよー」

意外と役立たずですね、神様。
俺のこと可哀相って言ったじゃないですか。
嘘なんですか嘘吐きなんですか。

「君、口悪いね」

ええまあ、それなりには。

「いいけどさ、べつに。そうそう、それで君に嬉しいお知らせだよ!」

なんです?
天国で豪遊でも出来るんですか?

「違う違う。君を生まれ変わらせてあげるよ!」

そうですか、じゃあお願いします。

「即答!?何か疑問とかないの!?」

面倒なんで、いいです。そういうの。
早くやっちゃってください。

「なんだかなー。ま、いっか」

結構アバウトですね。

「まあね。はいじゃあそういうことで、いってらっしゃーい」



で、転生しました。

そんな会話から早15年。俺は今、忍術学園ってところで忍たまやってます。
ていうか普通転生って未来にするもんじゃないの。
ここ過去なんですけど。バリバリ戦国時代なんですけど。

神様のバカヤロー、これじゃあただのタイムスリップじゃないか。
役立たずって言ったからですか。そうですか。



先輩!」
「おー」



まあいいか。ここも結構楽しいし。
そんなわけで、俺は元気です。













死が灰に溺れるまで