友人達が離れていった。
いやさ、物理的な距離じゃなくて心の距離?みたいな。
つか心の距離とか言ってて鳥肌立ってきたわ。
なんの青春漫画だっての。

ま、それはともかくさ、疎遠になりかかってんのは事実。
あいつら最近口を開けば「由香里さん」寝ても覚めても「由香里さん」だもんなー。
俺が何言ったって聞く耳なしだよ。

それどころか怒られた。
「あんなにいい人のことを疑うだなんて!」だって。
そんな女のことをコロッと信じてんじゃねぇよ、伊作。
落とし穴にでも嵌まって眼ぇ醒まししやがれ。

なんだよなんだよみんなして。
藤本由香里の一体どこがいいんだか。まったくわからないね。

そうそう、離れていくといえば委員会の後輩連中もなんだか遠い気がする。
こっちはなんか、物理的に遠い。

俺さ、とりあえず藤本由香里と何があっても関わらないようにするために常に遠くにいるんだよ。
だから竹門とか孫兵とか一年坊主共が藤本由香里の周りにいれば、自然と俺とあいつらの距離も離れていくわけ。

くっそう、俺の順風満帆青春学園ライフがめちゃくちゃじゃないか。
藤本由香里め、許すまじ。




つってもなあ、具体的になにやりゃいいんだろ。
やっぱり殺すのが一番手っ取り早いし、楽なんだけど、あいつら怒るだろうなー。
あんだけ懐いてんだから、それを殺したら俺のことを怨みそうだ。
それだと本末転倒だしさ。
出来ればこれは最終手段だな。

じゃあやっぱあれかな、追い出し作戦。
藤本由香里が自発的に学園を出ていきたいと思わせればいいんだ。
外に出ればきっとその辺で野垂れ死んでくれそうだ。
うん、この作戦でいこう。


って思ったけど無理だな。ムリムリ。
だって俺、藤本由香里に近付きたくねぇもん。
追い出すためにはやっぱり説得だろ?
話するためには近くに行かなきゃなんねぇだろ?
俺には無理だ。

まだ話してなかったと思うけどさ、俺刺されたって言ったじゃん?男に。
でさ、それでなんで刺されたかって言うと、教室の席順。
席替えで藤本由香里の隣の席になったんだよ、俺。
狙ってたわけじゃなくて、たまたま偶然。

それでさ、授業中に消しゴムが転がってきたんだ。
よくあることだろ?
で、まあ手渡すわけだ。



「ん」
「ありがとう」



それだけ。

どこにでもある、ありふれた風景の一部だろ?こんなの。
でもさー、なんかそれが気に食わなかった奴がいたみたいでさ。
刺されたわけだよ。ありえないっしょ。

だからさ、俺は藤本由香里に近付きたくないんだよ。
どんな些細なことが引き金になるか、わかったもんじゃねぇ。



はぁぁ、どーしよか。
なんかもうめんどくせーなあ。
なんで俺、藤本由香里のことでこんなぐだくだ悩んでんだろ。
わけわかんねー。やっぱ殺そっと。
それが1番手っ取り早いしな。

そうと思ったら早速実行だー!
さすがにあいつらの目の前で殺すってことはできねーから、藤本由香里をどっかに呼び出さないと。

裏山……は、無理だな。
あんなところに一人で来れるとは思わない。
町外れ……は、ううん。
小松田さんが入出門者管理してるから、いざというとき疑われるかもしんねぇし。
だったら学園内?
リスクは高ぇけど、人気の少ないところを選べば何とかなるんじゃね?
生物小屋の裏側とか、良いかもなぁ。
意外と見つかりにくいし。



「よっしゃ、きーまった!」
「先輩?」
「ん?どうした竹左ヱ門よ」
「八左ヱ門です!……先輩、最近ちょっとおかしくないですか?」
「人を捕まえて変人呼ばわりとは……」
「い、いえ!そんなつもりじゃ……!」



こいつって変な奴だよなぁ。
みんな藤本由香里にめろんめろんだから、委員会って半停止状態らしーよ?
なのにはっちーってば毎回ちゃんと委員会出てくれるんだ。
偉い奴だよ、タケやん。

あ、はちえもんだけじゃないぜ?
まごへーも一平も三治郎も孫次郎も虎若も、みんなちゃーんと出てくれるんだ。



「タケえもん、お前はいい子だなー」
「わ!ちょ、先輩!」
「あ、竹谷先輩だけずるい!」
せんぱーい!僕も撫でてー!」
「おー」



これが終わったら、藤本由香里を殺そうかなー。













須くは世界を救出