「なあなあ聞いてくれよ文次郎。俺死んだじゃん？まあつまりここにいる
俺は幽霊って訳だけどさ、それはともかく置いといて。俺死んだのには理
由があるんだよ。手首切って死んだじゃん？でもあれって実は自殺じゃ
ねぇんだよー。すげぇだろ。それじゃあなんで死んだかって？もちろん殺
されたんだよ！操られてー、だけど。今日は俺を操って殺した人間につい
て話すためにこうして文次郎の夢枕に立ったってわけさ！今からそいつに
ついて語るから、耳の穴かっぽじってよく聞けよー？なんと！俺を殺した
のは藤本由香里なんだよ！ぴっくりしただろー。あ、その顔は信じてねぇ
な？でも本当なんだから仕方ないじゃん。聞いてくれよ。俺さー、見
ちゃったんだよ。藤本由香里がサイギョウガサの忍と連絡取り合ってると
こ！びっくりだよマジで。サイギョウガサの忍がなんでこうも上手く学園
に入り込めたかっていうと、藤本由香里は幻術使ってるみたいなんだよ
なー。しかも超強力なやつ！だからみんなして騙されてたんだ。わかった
か？で、だ。そんな危険人物、つーか間諜なんて学園に居座らせて置けな
いじゃんか。だからさっさと殺そうとしたわけ。俺ってば偉いでしょ。事
情を文次郎に話さなかったのは、お前が藤本由香里を慕ってたからさぁ。
幻術に掛かってる中で、あいつって間諜なんだぜーって言っても信じない
かもしんないじゃん？別にお前を疑ってるわげじゃないんだかんな？
うん。逆にバレたら俺が口封じとして殺されるかもしんないしー。まあ、
結局殺されちゃったけどさ！あっはっは。あ、そうそう、これが本題だ
よ。夢枕にせっかく立ったのはねー、お願いがあるからだよ。遺言って言
うの？でもあれって死に際で遺す言葉だし……死んだ後に残す言葉ってな
んて言うんだろ？死言？まあいっか。ともかくさ、俺のお願い聞いて欲し
いなーって話。無理だったらいいよ？君は優しいので強制じゃああ
りません。ふふん。祟ったりもしないから！だから気楽に聞いてくれ。願
いはね、ずばり、俺の出来なかったことを成し遂げろ！ってことで藤本由
香里を殺してくれ！いやいや、文次郎にとっちゃ簡単だろ？何年学園にい
んだよ。楽勝だって！お前のこと信じてるからよ！」
「君、そろそろ時間だよー」
「あ、やっべ、時間きちまった！まだまだ話したいことあったのになぁ。
悪ぃ、文次郎。時間切れだ。あ、最期にこれだけは言っておくぜ！俺別
に、お前のこと恨んでなんかいないよ？そりゃ、俺のこと信じてもらえな
かったのは寂しかったけどさ。でも俺、ちゃんとお前のこと仲間だと思っ
てたからさ！気にすんなよ！お前はちゃんと人生を謳歌しろよ！長生きし
ろよ？すぐにこっち来たら承知しないかんな！じゃあなー」
潮江文次郎は悔いた。
なにが忍だ、なにが三禁だ。
鍛練ばかりやっていたというのに、友一人守れやしないじゃないか。
敵方の色に迷い、女に溺れ、友を信じることの出来なかった自分を悔いた。
馬鹿だ。俺は馬鹿だ。大馬鹿野郎だ。
の仇を、藤本由香里を殺しても、気分が晴れることはなかった。
満足感も爽快感もなく、ただ、苦しかった。悔しかった。
が由香里さんを殺そうとしたとき、俺は友ではなく女をとった。
長い付き合いのの言葉ではなく、会ってたかが一週間かそこらの女の言葉を信じた。
いくら術中にあったとはいえ、これほどまでに情けないことはないだろう。
その結果がこれだ。
以前幻術使いから聞いた話だが、いくら操られていたとしても人ひとり、自ら死に追いやるのは難しいらしい。
僅かでも、本人にその意志がなければ不可能だという。
ならば、を追い詰めたのは俺だ。
が由香里さんを殺そうとした後、俺はを罵り、軽蔑し、殴った。
「お前なんぞ、もう友でも何でもないわ！」
そう、吐き捨てた。
そしてを見かける度に睨み付け、殺気を送って暴言を吐いた。
振り返れば、ありえないことばかりをした。
決して許されないことをした。
謝っても許されることじゃない。
藤本由香里を仇だと言って殺したが、それだって所詮俺の自己満足だ。
のことなんか何一つ考えちゃいない、独りよがりだ。
では何をすればいい？
仇であった女を殺した今、俺はのために何をしたらいい？
ああ、そうだ。
藤本由香里が所属していたサイギョウガサを滅ぼそう。
元を正せば学園に間者を送りこんできたサイギョウガサがそもそもの原因なのだ。
計画を十分に練った後、じっくりと攻め落としてやろう。
どれだけ時間がかかっても、一生かかったとしてもかまわない。
は長生きしろと言ったのだ。
ならば、この命尽きるまで友のために使おう。
あいつは迷惑がるかもしれんが、そんなことはどうでもいい。
ようはこれも俺の自己満足だ。
そうだ、そのためにはもっと鍛練を積まなくてはいかんな。
もっともっともっと強くなって、この戦乱の世を生き抜いてやろう。
と会っても、胸を張って誇れるように。
三禁も当然守らねばなるまい。
忍として、忍に生きるために。
今回のような愚行を二度とすることのないように。
いっそのこと、己の雄を切り落とすべきだろうか。
それこそ、二度と色に迷わぬように。
………それもいいかもしれない。
さすれば、もう決して過ちは犯すまい。
潮江文次郎は、そう悔やんでいた。
いざというときに役立たず