の守備範囲は広かった。



「よっ!迷子トリオ!」
「あ、先輩」
「先輩こんにちはー!」
「ちわっす」



その日が出会ったのは、学園屈指の方向音痴である3年ろ組の3人 であった。ちょうど迷子を捕獲したところなのか、富松作兵衛の右手には 次屋三之助の左手が、左手には神崎左門の右手がしっかりと握られていた 。傍から見れば仲良し3人組でほほえましい光景だが、作兵衛はそう思わ れるのが不本意だと言う。それでも2人の相手をきちんとするあたりに彼 の面倒見の良さが滲み出ている。その性格は委員会の留三郎譲りか?とも は思ったが、とりあえず胸の内に留めておく。きっと言葉通りに受 け取ることはないだろうから。詳しく知りもしない後輩の性格をそうやっ て分析できるあたり、意外とは鋭かった。



「お前ら今から昼か?」
「はい。こいつら探してたら遅くなりました……」
「違うぞ作兵衛。食堂が迷子になってたんだ」
「迷子になってたのはお前らだろ?2人ともいつの間にかいなくなってるし」
「それはこっちの台詞だ!」



いつも通りのボケとツッコミを繰り広げる3人をはにこにこしなが ら眺めていた。ここに同級の誰かがいたらを見て「気持ち悪い」と 評価するかもしれないが、運のいいことに後輩しかいない。は基本 後輩に優しい。彼は用具委員長に負けず劣らず面倒見がよく、なんの関わ りもない後輩だとしても困っていれば手を差し延べるような男だった。幸 いなことにの足フェチも低学年には発揮されることもなく、だから 当然1、2年生の間では「頼りがいのある尊敬できる先輩」として人気が あった。ついこの間まで2年生だったこの3人も当然のごとくを慕 っているのだが……残念なことにの守備範囲は3年生以上だった。



「本当にお前たちは仲が良いな。そうだ、ちょっと足を見せてくれないか?」
「………はい?」
「足だよ足!やっぱりあれか?毎日かなりの距離を走り回ったりしてるか らか?学園の中で一番移動距離が長そうだもんなー、お前ら。だからか! その袴の上からでもわかる筋肉のつき方!これがきっと萌えってやつなん だな。よく歩く富松と神崎は大腿二頭筋、委員会で更に走る次屋は半腱様筋!お 、富松はよく踏ん張るからかなぁ、内側広筋まで!これはぜひとも直に見た い!な、いいだろ?俺からのお願い!ちょっと袴脱いで足見せてくれよ! くふ、ふふふふふ、成長しきってないくせに筋肉のついた足っていいよな ぁ……!ちょっとでいい、ちょっとでいいから袴脱がないか?な、俺から のお願い!」



のいきなりのマシンガントーク、及び足フェチを通り越した変態発 言に作兵衛はドン引きした。え、ちょっ先輩が壊れた!?今まで自 身の委員長の次に尊敬していた先輩の、あまりの豹変ぶりに作兵衛は思わ ずこの人は偽者なのでは?とも疑った。実はこの人は先輩なんかじ ゃなくてどこかの城のスパイで先輩はどこか地下牢とかに閉じ込め られてていややっぱりもう殺されて……!思考迷子は止まらない。そんな 作兵衛の心情などつゆほど知らない他2名は元気よく答える。



「わかりました!」
「俺も別に……」
「そうか!それなら早速……うひひひ」



もはや主人公とも思えぬような笑い声と表情では後輩へと迫ってい く。しかしそのとき思考を現実へと引き戻した作兵衛が、慌てて親友2人 を魔の手から救出する。か、間一髪……!だがは止まらない。久々 に自分から見せてくれる者が現れたのだ、この機会を逃してなるものか! と鼻息を荒くする。もはや完全なる悪役だ。怯えて顔を青くする作兵衛に 袴に手をかける三之助と左門。(作兵衛のみ)絶対絶命大ピンチ!



「お前はアホか。なにをやっているんだバカタレ」
「あたっ」
「し、潮江先輩!」



だが悪役がいるからには当然正義の味方もいる。いいところで後輩を救い 出した潮江文次郎はそのままの首根っこを掴み、伊作が探していた ぞ、と言いながらずるずると引きずっていった。後には助かったと胸を撫 で下ろす後輩が一人。、こうして彼はまた噂の的になるのだ った。「奴は3年生以上なら誰でもイケるらしい」と。













熱烈視線で君を私選