の最近のマイブームは、袴下ろしだった。



「やっほーい!御御足拝見いたしますぜっ!」



そんな掛け声とともに、小学生男子が同級生の女子のスカートをめくるか のごとくも通りがけに袴を下ろしていくのである。ただし、タチの 悪いことにターゲットは同級生だけではないのだが。その日も哀れな被害 者が出た。その被害者の名は、我らが図書委員長中在家長次。



「よう長次!今日もいい足してんなあ!俺お前の足かなり好きだぜ?仙蔵 のとはまた違った良さがあるっていうかさぁ。ガチムチとまではいかない 、この微妙な筋肉の盛り具合っていうかさぁ。も、なんつーの?仙蔵のは 眺めてたいんだけど、お前のは触りたくなるんだよ!実践用だよ実践用。 何を実践するかって?んな野暮なこと聞くもんじゃないぜ、お客さん!で 、触っていいか?お触りしてもいいか?いいよな、長次!お前は心の広い 良い奴だ。なっ!?」
「だめと言えば、止めるのか」
「まっさかー!止めるわけないじゃないか!俺に足愛でんの止めろっての は、小平太にいけどん禁止って言うのと同じくらい無謀なことだぜ?つま りは無理!でもさ、一応ほら、許可だけはもらっとこうと思って!形だけ だけどな!つーことで、体裁は繕った!後は触りたい放題だ!」
「………舐めるなよ」
「あいあいさー!」



廊下の真ん中で下半身を露出したこわもての男とそれに飛び付く男。異様 にもほどがある、現代ならば確実に警察官が飛んでくる光景だ。そこへ通 り掛かる全員がそれを見てギョッとするも、片方がだとわかると納 得顔で去って行く。だってもう6年目だもの、当然慣れた。中には長次に 向かって「ドンマイ!」と口パクで伝える者も。けれど助けようとする者 は誰ひとりとしていなかった。哀れ。唯一の救いといえば、ここが6年長 屋だったということぐらいだろうか。少なくとも、委員会の幼い後輩たち にこんな姿を見られる可能性が低いことは長次にとって気を軽くさせてい た。だからといっての行動を歓迎することは到底できないのだが。



「………
「なんだ?舐めていいのか?それともお持ち帰りしていいのか?このライ ンを一日中眺めていられるのならそれもいいかもしれないなぁ。飽きない 自信が俺にはあります。ってわけで、テイクアウトお願いしまーっす!」
「違う……そろそろ、委員会の時間だ」



無表情のまま、長次は一方を指していた。がその視線の先をたどっ ていくと、確かに鉢屋三郎と不破雷蔵が連れ立って歩いて来る。おそらく 長次がに捕まっていると聞き、救出に来たのだろう。一卵性双生児 も真っ青のそっくりさで2人は近付いて来た。



先輩、もうすぐ委員会が始まりますから中在家先輩を離してくれ ませんか?」
「お願いします。先輩も委員会ですよね?早く行かないと」



同じ口調、同じ動作に同じ苦笑いを浮かべながら両人は言った。どうやら 三郎はと長次を騙そうと、顔だけでなく所作も模倣しているようだ った。ただでさえ変装のおかげで瓜二つだというのに、これではまったく わからないと長次は眉間に皺を寄せる。毎度のこととはいえ、三郎の悪戯 好きにには困ったものである。



「ちょっと三郎!僕の真似しないでくれる?」
「またお前はそんなことを……三郎、いい加減にしなよ?先輩方が困って いらっしゃるだろう」



むむむ、と互いに睨み合って動かない。いくら凝視しようともそこに違い を見出だすことができず、長次が諦めて降伏でもしようかと考えたとき、 隣にいたが動いた。



「やっほーい!御御足拝見いたしますぜっ!」



まさに早業。一瞬の出来事であった。が動いたかと思われた次の 瞬間、三郎と雷蔵の袴は紐を解かれ、下ろされていた。唯一残された褌 が白く輝いているかのようだ。は4本の足を舐めるように観察す る。脱がされた二人はというと、固まって動けない。いきなりの展開に 脳が付いていかないのだろう。やがてはうむ、と一人頷き、びし ぃっと指を突き付けた。



「三郎は、こっちだ!」



やはりこの男、変態である。













馬鹿と天才は紙一重