は、酒盛り好きであった。



「良い酒もらったんだが、お前も呑むか?」
「本当?呑む呑む」



忍には三禁、すなわち酒、女、金に溺れるべからず、というものがある。 しかしそれは一切を禁じているわけではない。溺れさえしなければいいの だ。つまり、最高学年ともなればしばしば「酒に耐性をつける」という名 目の元に酒盛りが行われる。ちなみに教師たちも息抜き程度ならば、と黙 認状態である。本日もそんな「息抜き」と称された酒盛りが一部のメンバ ー間で行われることとなった。そこへどこからともなく登場するのが である。とは言うものの、の目的は酒ではない。酒盛りで行われ る余興、すなわち―――脱衣ゲームだ。



「さあ、宴もたけなわ盛り上がってまいりました!ここで登場するのが司 会のくん!え、なんの司会かって?決まっているじゃないか。脱衣 ゲーム、すなわち野球拳の司会なのだよ!ひゃっほう!ルールは知っての 通り、じゃんけんで負けた奴が1枚ずつ脱いでいくんだぜ!って言っても 5回も負けりゃ褌一丁だけどな!ててててん。ここでくんルールが 発動します。最初に脱ぐのは基本的に袴だかんな!次に足袋で、あとは自 由!あ、褌だけは脱ぐの禁止!そんなもの見たって誰も喜ばないからな。 よーし、ルールはわかったな?じゃあいくぜ!はいっ、やーきゅうーぅす ーるならぁ」



酒を呑んでもいないのにこのハイテンション。ある意味うざい。ところが すでに良い具合に出来上がっている面々は、の突然の乱入にも楽し そうにしている。むしろ待ってました!と言わんばかりにノリノリで野球 拳に参加する者が多数。笑って静観する者が小数。彼らの間ではこれが定 番なのだ。むしろこの乱入がなかったときにはいまいち呑んだという気が しないという。まったく、6年生というのはどうしようもない奴ばかりで ある。



「次は私だ!私がやるぞ!、勝負だ!」
「ふふー、残念だけどそれは無理な相談だぜ小平太!俺は司会だからな、 足をじっくり眺めろという神からの信託を受けてここにいるのだ!残念だ が、他の奴と勝負をするがいい。文次郎はオススメだ!あそこで暇そうに してるぞ」
「ん、じゃあ文次郎と勝負だ!、文次郎に勝ったら私と勝負だからな!」
「はいな」



多数の方に含まれる七松小平太は小数に属する潮江文次郎の元へと突進し ていった。嫌がる文次郎に参加を促し、を始めとする周りの人間は 歌を歌いそれを囃し立てる。ある意味そこは阿鼻叫喚の人外魔境と化した 。南無。早々に決着は付き、敗者は酔い潰れて素っ裸のまま地に伏し、勝 者は新たなるターゲットをロックオンする。しゅぴーん!その野生獣を彷 彿させる目つきに思わず腰の引けたはこっそり脱出を試みるが、あ っさりと捕まってしまった。小平太のイイ笑顔にたらりと汗が頬をつたう 。絶体絶命大ピーンチ。ところで、は足を見るのは好きだが見られ るのは好きではない。むしろ肌自体を人に見せることが少ないと言えよう 。風呂は人がいないときを見計らって素早く入り、部屋は一人部屋。夏場 は暑くても決して上着は脱がないし袖も捲くらない。ちなみに以前行われ た水練の授業ではいたるところに古くなった包帯を巻いていた。古い包帯 は汚れが多いから水に濡れても透けないんだよ!なぜ見せないのか、とい う理由については後日改めて語ることとしよう。そんなわけで、の 肌は誰よりもレアなわけだが、今それが周囲に曝されようとしていた。



「アウト!」
「セーフ!」
「「よっよいのよい!」」



しかしは強かった。己の動体視力と反射神経を最大限に駆使し、勝 負に挑んでいる。そこには自分の足を見られまいと、そして小平太の足を 絶対に見てやろうという執念すら感じられた。そしてその執念には敵わな かったのか、残すところ小平太が袴1枚、は足袋を両足脱いでいる だけの状態となった。いよいよ勝負がつくのだと、一同固唾を飲みこんで 見守っている。一応確認しておくが、これはただの野球拳であるので。あ しからず。



「アウトッ!」
「セェフゥ!」
「「よっよいのーよいっ!」」



、グー。小平太、チョキ。伝説がまた一つ誕生した瞬間であった。 小躍りする。彼はまだ知るよしもなかった。一人の男が自分を狙っ ていることを。













知らぬは本人ばかりなり。