は珍しく怒っていた。



「いいか?斎藤。俺は何も髪結いという職業を否定しているわけじゃない 。むしろその仕事は素晴らしいものだと思っている。尊敬する。お前は自 分の好きなことを仕事にして、しかし努力を怠ることもない。なかなか出来ることじゃないぞ?それは」
「いやぁ、それほどでも」
「だがな!だからこそ俺はお前言いたいことがあるっ!」
「えー、なんですかぁ?」



ある日の午後、珍しい組み合わせの二人が向かい合って話をしていた。こ こに至る経緯にはいろいろあったのだが、短くまとめると、つまりは が目の前の後輩がしていた行為に対して突っ掛かったのである。いちゃ もんをつけた、とも言う。すぅっと大きく息を吸い込んだは、その 思いの丈を一気にぶちまけた。



「剃刀を使う練習に膝を使うのは止めろ!いや、止めて下さい!足を傷つ けるとかマジありえん!それは俺に対する挑戦か!?そんな顔して、実は 俺に喧嘩売ってんのか!?買うぞ!言い値で買ってやる!いや待て、勘違 いするなよ?俺は傷を否定するつもりはないんだ。足についた傷……それ は勲章といってもいい。表彰もんだ。愛してる。だがな!俺は、俺はわざ と付けた傷なんて認めないからな!自虐行為ではないとわかってはいる。 だが!認めん!自分の膝を傷つけるくらいならまずは俺の頭を使え!足の ためなら俺は禿げたってかまわない!」



立て板に水とはまさにこのこと。腕を組んで、むっふーと鼻息荒く言い切 ったは無駄に男前だった。さすがである。だがしかし、対する同い 年の後輩である斎藤タカ丸も負けてはいなかった。の理不尽ともい える言葉に、にこにこと笑いながらも反撃へと入る。



くんの言っている意味はよくわかるよ?それならぼくは例え十円 ハゲだって、その人の個性だって受け止めるしね。でもね、練習は大切だ と思うんだ。人様の身体の一部をいじるんだから、むやみなことはできな いし。だから練習は自分の膝を使うんだよ。練習で人様を傷つけてたら元 も子もないじゃない。ぼくは髪結いというものにそれなりのプライドはもっているんだよ?」
「だから!俺を使えと言っている!もっと足を大事にしろ!」
「それならぼくも言わせてもらうけどね、くんこそもっと髪を大切 にするべきだよ。足ばっかりを見てるから、髪が傷んでるよ?下ばかり見 てないで、たまには上を見なきゃ。なによりもやっぱり髪の毛だよ。色、 艶、長さ、質。足よりもよっぽどバラエティー豊かじゃない」
「何を言うかと思えば……斎藤、お前はまだまだだな。人体の真の魅力は 足だ!足の魅力なんて腐るほどある!長さ、色、太さ、ライン。もっと細 かく言えば爪の先から肌の弾力、骨の形まで俺は語れるぞ?」



むむむ、と睨み合う両者。まるで火花が散っているかのようである。足フ ェチと髪フェチ、はたしてどちらの方が需要が高いのかは知らないが、事 態は白熱していた。一歩も引かない彼らの姿はまさに一発触発。すぐにで も取っ組み合いの喧嘩が始まりそうな雰囲気だったが―――奴らの行動は、周囲の理解を越えた。



「斎藤ぉ!」
くんっ!」



ガシッ!二人はその手を固く握り合い、握手した。なぜかバックが夕日に 見えてきた。青春だ。どうやら和解したらしい。足フェチと髪フェチ、好 きな部分は違えど互いのフェチズムにはなにか通じるものがあったのだろ う。常人には到底理解できないものが。その後二人は肩を組み、笑い合い ながら食堂へと向かって行った。茶を飲みながらじっくりと討論するよう だ。そんなわけで、すね毛同盟が誕生したのであった。













類は友を呼ぶ