は悩んでいた。



「はぁぁ………」



普段は足フェチばかりが全面に押し出される彼だが、それを除けばいたっ て普通の15歳の少年だった。そう、15歳。悩める思春期である。珍し くもが悩んでいる原因は、彼の後輩、変装名人にあった。
その日のはいつものように足ウォッチングをしながら歩いていた。 最近は奴が突然現れては袴を下げようと画策してくるので、やや緊張しな がらの足ウォッチング。は袴の上からだというのにも関わらず、ふ くらはぎの筋肉がちょっと増えただのあの部位の筋を痛めてるだの的確に 指摘する。いっそ足専門のインストラクターにでもなった方がいいかもし れない。そんなの前に現れたのが、鉢屋三郎である。いつものよう に唐突に現れた三郎。また袴を下げようとするのか!?とは身構え 、逃げのポーズをとる。しかしなにやら三郎の様子がおかしい。いつもな ら笑いながら追い掛けてくるというのに、今日は視線をうろうろとさ迷わ せながら、あーだのうーだのと呟いている。心なしか頬が赤い気もした。 いつの間にか周囲に人の姿が消え、一年生の歓声が遠くから聞こえてくる 。タイミングよく人がいなくなったのは三郎の同級生たちが気を利かせて 交通規制をかけたからなのだが、そんなことは知らないは異様な雰囲気に耐えられなくなり、恐る恐る声をかけた。



「さ、三郎……?」



三郎はそのの声に意を決したように顔を上げ、先輩!と声を 張った。ビクッと肩を震わせたの眼を見つめ、一気に言った。



「好きです!」
「……は?」
先輩のことが好きです!」
「………はぁ、」



気の抜けた返事をしながら意味をかみ砕こうとする。三郎は俺が好 き。え、俺だって好きだし。性格はちょっとアレだけど良い奴だし、後輩 だし。でも三郎の好きって違うよなぁ。あれだよな、男色的な意味で好き ってことだよな。ってことはあの袴脱がせようとしてきたのはアプローチ ?え、マジか。いじめじゃなかったのか。悶々と考えるはやはり三 郎の行動、袴脱がしの意味を正しく理解していなかった。鉢屋三郎、憐れなり。



「あのさあ、三郎」
「……はい」



しばらくの沈黙ののち、ようやく口を開いた。返事がくるのか、三 郎はごくりと息を飲んだ。しかしながらが話したのは肯定でも否定でもなく、ただの質問であった。



「お前、好きな相手に触りたいよな?」
「え」
「だから、俺に対して手ぇ繋いだりちゅーしたりえっちしたりしたいんだよな?」
「そりゃ、そうですよ」



何を当たり前なことを……と三郎は訝しがる。というか好きな相手にそう いう感情を抱かなかったら、それはただの「良い友達」じゃないか。だがはふざけた様子はなく、真顔だ。



「ごめん、三郎。無理だ」
「え……」
「俺はお前相手に……いや、違うな。男相手に、そういうことはできない」



ごめん、と再度謝り、顔を背ける。これまでにない拒絶だった。三 郎はそんなを見て、顔を俯かせる。がちらりと三郎に目をや ると、肩は震え、拳をギュッと固く握り締めていた。泣いているのだろう か、とは声をかけるべきか逡巡する。だが振ったのは自分だ。ここ でが慰めるというのはお門違いというものだろう。三郎を刺激しな いよう、そっと離れようとしたその時だった。ブチッと何かが切れるような音が聞こえて、はえ?と振り向いた。



「あんた今まで散々人の袴引っぺがしておいて何言ってんだ!男の袴脱が して眺めてほお擦りしてたのはどこのどいつだよ!男は無理?はっ!寝言 は寝てから言え!説得力ないんだよ!今更諦めるわけないでしょうが!っ 、先輩いいですか?先輩がなんと言おうが、私は先輩を振り向かせてみせますので。ええ、絶対に!」



そこにいたのは激昂した三郎だった。いつも冷静な彼にしては珍しく感情 のままに怒鳴っていたが、最後になんとか敬語で取り繕い、三郎は宣言し た。そんな後輩をはぽかんと見るしかない。さて、終わるかと思われたこの物語は、意外な方向へ転がり始めた。













僕ら青春真っ盛り!