の話をしよう。



「おや小さいの、一人で大丈夫かい?」
「だいじょうぶです。ひとりでできます」
「そうかい。頑張りな」
「はい」



に家族はいない。普段のおちゃらけた姿からは想像できないが、実 は天涯孤独の身である。さて、それでは少しばかり話は過去へと遡る。
が学園に入る前、八つを迎えたばかりのときのことだ。身寄りのな いは、忍術学園への入学金とその授業料を自分で貯めるべくいくつ もの仕事を掛け持ちしていた。まるでどこぞのは組のドケチのようではあ るが、の仕事は彼と決定的に違うものがあった。それは働く場所で ある。は主に寺や神社、奉行所や関所などある程度の公共性や規律 のある場所を選んで働いていた。給金こそ高くはないものの、そこには確 かな安全性と商店でやる仕事よりも安定した給金があったため、なんの後 ろ盾もないは意図的にそれらの場所を選んでいた。それは孤独なの生きる知恵の一つだった。



、そこはもういい。廊下を掃除しなさい」
「はい、わかりました」
「それが終わったら厠掃除で、そのあとは庭の雑草抜きだ」
「はい」



この頃のは多少足フェチではあるが、現在のように異常な興味を示 すこともなくいたって普通の子どもだった。真面目で大人の言うことをよ くきき、口答えをしないは仕事先での評価も上々。引く手数多とい うほどでもないが、なんとか生活と貯金するだけの稼ぎはあった。だがし かし、問題がないわけではなかった。いや、こう表現すると少々語弊があ る。問題があったのはではなく、その仕事先での方だ。端的に言え ば、は稚児趣味のある坊主に狙われたのである。



、それが終わったら私の部屋にきなさい」
「はい」



寺の坊主である男の一人は、仕事をするの前によく現れた。仕事を 命じるときには、舐め回すかのような視線で彼を見るのが常だった。だが 年端もいかぬにそんなことが理解できるはずもなく、ただ不快感が あるのみのため特に不満も言わなかった。結果それは坊主を付け上がらせ ることとなる。周囲の目があるからか、現在で言うセクハラしかしていな かった坊主がついに行動に移したのだ。相手は親類もない孤児である。所業が露見するはずもなかった。



「いい子だ、。さぁこちらへ来なさい」



を部屋へ呼び付けた坊主は、布の上からではあるもののの足 を撫で、尻を撫で、行動をどんどんエスカレートさせていく。抗議の声を 上げるも坊主が聞くはずもなく、ただいやらしく笑っている。そんな坊主 の行動にはとうとう悲鳴を上げた。だが場所は本堂から遠い離れ。 悲鳴を聞き付ける人間もいない。逃げ出そうにも、十にも満たぬ子どもが 大の大人から逃れられるはずもなかった。幸いにも最後まで事が及ぶこと はなかったが、その行為はに深いトラウマを作った。肌を出してい たから欲情されたのだ、と。そう、貧しいが故には粗末な裾の短い 着物しか身につけていなかったのである。結果、彼は人前での露出を嫌う ようになった。それはたとえ暑い夏だとしても長袖のの姿を見れば 、傷の程度が伺えるというものだ。過度ともいえるこの自己防衛が、孤独 なを守ってきた。力をつけた今でもそれは同じである。だからは、



「ばーかばーか!三郎のばーか!こっちくんな!」
「ふふふふふ、せ・ん・ぱ・いっ!」
「ぎゃああぁぁあ!!」



露出を嫌うのである。













ひそかに語られる内緒の話