オレが死んで、生き返って、七五三の合計十四年が経った。
オレももう十五歳だ。あと一年で中学校も卒業さ!
ま、オレが通ってんのは小学校じゃないけどねー。


のコロッケを食いそびれた後、オレは江戸村みたいなところにいた。
いたっていうか、生まれた。

そこではみんな着物を当たり前に着てて、畑を耕しながら生活をしていた。
そう、オレはタイムトラベラーになったんだ!凄いだろ。

オレはその村で、新しいとーちゃんとかーちゃんに育てられた。
二人ともかなり若かった。
オレと同い年くらいなのに子供産んで育てるなんて偉いよなー。

だけど、そこにはいなかった。
生活はそれなりに楽しかったけど、に会えないのだけは残念。
ていうか、いつも一緒だったがいないのは変な感じだ。
の作ったプリン、好きだったのになー。
でもかーちゃんの料理も美味しいからとりあえず満足です。うむ。


でさ、オレそこで大根の桂剥きを極めたりフクロウとネズミ捕って遊んだりして楽しく過ごしてたんだ。
とーちゃんたちは仕事で忙しそうだし、同い年の子供はいなかったし。
だからオレの遊び相手はフクロウだ。

その日もフクロウのろくろくと一緒に山の中で遊んで、帰って来たら―――村は、真っ赤だった。
一目見てわかった。「これはもう無理だ」って。
とーちゃんもかーちゃんも村のみんなも好きだったけど、死んじゃった。
あっけない最期だった。

死体を集めて墓に入れて、アーメンソーメンヒヤソーメンって唱えたのがオレが8歳のとき。
それから一年間、ろくろくと一緒に山で暮らしてたら、迎えが来た。
あ、別に迎えって言っても、あの世からじゃなくてとーちゃんの知り合いな。



「君、景明の息子?」
「けーめい……とーちゃんのこと?」
「当たりだね。さ、行くよ」



そんな感じで問答無用に連れ去られた。
今思い返せばこれ絶対人掠いだよな。誘拐は犯罪です。

そんな風にオレの現保護者、雑踏どんなもん?違った、雑渡昆奈門さんと出会った。
「ざっとこんなもん……略して雑魚だね」って言ったら怒られたのもこのとき。
苗字と名前から一文字ずつ取ればこうなるのにね。なにが嫌なんだか。
ちなみに部下の諸泉尊奈門さんはもそ、だと微妙だからしそで。梅干しじゃないよ。

オレはざっとーさん(発音的には納豆と同じね)に育てられた。
普通の小学校で受けるような読み書きそろばんじゃなくて(もちろんそれもやったけど)オレが教えられたのは忍のいろは。
手裏剣の投げ方に潜入の仕方や欺く方法と、人間の殺し方。
忍に必要なことを一から十まで徹底的に仕込まれた。

一度、どうしてこんなことをするのか?と聞いたことがある。
だって何にも知らないままに忍になろうと思うほど、オレ素直じゃないし。
答えは、オレの村にあった。ただの農村だと思ってたオレの村は、実は忍者の隠れ里だったらしい。
ちなみに伊賀でも甲賀でもないって。火影とかもいないらしいし。

それでとーちゃんと古くからの知り合いだったざっとーさんは、もしもの時は頼む!とお願いされてたらしい。
だから忘れ形見であるオレを引き取ったんだって。

でもそれにしたっておかしなところがある。
だってざっとーさんがオレを迎えに来たの、とーちゃんたちが死んで一年後ぐらいだぜ?
それまで放置って、なんのプレイだよ。
そう言って問い詰めたら、あっさりとした答えが返ってきた。

「景明が死んだって、知らなかったんだよ」

って、えー。普通長い間連絡なかったら不審に思うでしょ。
あ、だから村まで来たのか。納得。
まぁそんなわけ。


で、それは置いといて。
オレは今、忍術学園なる建物の前にいる。
かなりでかいよ、これ。オレが通ってた中学よりでかい。
何坪ぐらいあるんだろ。



「はいはい伊織、ぼーっとしてないで。行くよ」
「あいさー」



門の前にいるけど、別にオレは入学しに来たわけじゃない。
ざっとーさんに連れられて、強制的にやって来ただけだ。
なんでも、ざっとーさんのお気に入りの子を紹介したいらしい。
いい年したおっさんが若い子をストーカーだってさ。まったくもう。

あ、ちなみに不法侵入です。
音を最小に抑えて、前を行くざっとーさんの後を追い掛ける。
どーでもいいけど、この体勢腰が痛くなるんだよね。腰痛になったらどうする!



「ここだ。ちょっと待ってなさい」
「うい」



そう言ってざっとーさんは、すたっと部屋に着地した。
オレもそれに続いて下に落ちる。
ぐえ、となにかがオレのケツの下で潰れた気もするけど、スルーしよう。聞こえなかったよー。



「伊織、君ねぇ……」
「はい?」
「"ちょっと待ちなさい"と言った思うけど?」
「待ちましたよー、ちょっと」



日本語って曖昧だよね。はっきりわかんないし。

に一度教わったのだけれど、"ちょっと"にも沢山の種類があるらしい。
その時の状況によって数秒だったり数分だったり数時間だったり、ときには数日だったり。
この状況での"ちょっと"がどのくらいなのかはよくわかんなかったから、数秒にしてみた。
オレ、待つのってあんまり好きじゃないし。



「ほらほら伊織、早く伊作くんの上からどいてあげなさい」
「いさくくん……」



ああ、オレが踏み潰したのか。道理で柔らかいはずだー。
人間クッションは初めてだけど、骨が当たって意外と痛いなぁ。
座るならやっぱりおすもうさんってことか。

はっけよーい、と掛け声をかけながら上から下りる。
うめき声をあげながら起き上がったざっとーさんのお気に入りは、なんだか人の良さそうな顔をしてる。



「はじめましたいさくくん。伊織」
「え?……あ、ああ。はじめまして伊織、さん?善法寺伊作です」
「いさくくん、15歳でしょ?同い年。呼び捨てでいいよー」
「あ、うん……ってそうじゃなくて!雑渡さんっ、何なんですかいきなり!」
「伊作くんに伊織を紹介しようと思ってね」
「そうじゃなくてっ」



ざっとーさんといさくくんが言い合ってる間に、部屋の中をざっと眺める。
薬臭いし布団もあるし、乳鉢があるから保健室なんだろーな。

学校のとは似てるようでやっぱり違う。
ベットじゃないし、冷蔵庫ないし、冷暖房完備じゃないし。
それに、何てったって人体模型と骨格標本がない。

この二つがなくちゃあ保健室とは認められないな!
人体模型の内蔵を入れ替えて遊ぶの好きだったのに、ないなんて残念だなぁ。
あ、でも骨格標本だったらありそうだ。骨だし。



「いさくくん、骨格標本はないの?」
「あるよ?僕の部屋に置いてあるんだ」
「部屋って、君ね……」
「いいじゃないですか。保健室に置いておくと、一年生たちが怖がるんですよ」
「名前は?」
「え、名前?」



やっぱり自分の持ち物には名前を付けてやんないとだめだよな。
じゃないとどれが自分のやつかわからなくなるから。
だって自分の持ち物には名前を書けって言ってたし。

鉛筆のえーちゃん、消しゴムのけーくん。
あ、ふでばこはふーすけね。

じゃあやっぱり骨格標本は、



「こーちゃん」
「こーちゃん?」
「骨格標本のこーちゃん。かわいいでしょ」
「うん……?そうだね!いいかもしれない」
「でしょー」



オレも我ながらいいネーミングだったと思うんだよね。
勉強机にベンジャミンって名前を付けたときと同じくらい良いできだ。
こんな名前があればきっと一年生も怖がらないはず!



「二人とも仲良くなったところ悪いけど、そろそろ帰るよ」
「まじっすか。じゃーね、いさくくん。また今度」
「うん。またね、伊織。雑渡さんも、今度は普通にいらして下さいね」



ばいばーい、と手を振って再度屋根裏を通り帰っていく。

切り上げるのが早いよ。
せっかく仲良くなれたのに、ざっとーさんが帰るなんて言い出すからあんまり話せなかったし。
まあ人の気配が近付いて来てたから仕方ないけどさー。
もうちょっと話したかったな。

よし、道順も覚えたことだし今度は一人でこっそり来よーっと。



「伊織、置いていくよ」
「あーい」



そういえば、近付いて来てた気配はなんだかに似ていた気がした。
がいるわけないけどさー。

あ、でもあれからだいぶ時間が経ったし、あっちじゃももうおじさんだよね。……ぶふっ。













影ふみの君



「伊作」
「あ、
「今ここに誰かいなかったか?」
「いたけど、もう帰っちゃったよ」
「そうか?」