「ぎゅーどん、てんどん、おやこどんー」
どんぶりの歌を口の中で歌いながら天井裏を進んでく。抜き足差し足忍び足ってね。
本日伊織くんはいさくくんと遊ぶために忍術学園へ忍び込み中でございまーす。
目指すは保健室!あれ、医務室だっけ?どっちでもいっか。

いさくくんが保健室にいる昼間に遊びに来てるんだけど、最初にざっとーさんと来たときみたいに人がいないとこを選んでるからたぶんバレてない。
あ、嘘。一回バレた。前に来たとき、他のお仲間さんと鉢合わせしたんだよ。
ざっとーさんよりも若いおにーさんで、確か家族の様子を見に来たんだって!過保護だよねー。モンスターペアレンツ!



「おにーさんの子ども、そんなに出来が悪いの?」
「いいや、二人ともよく出来た子だよ。ちなみに私の子じゃないがね」
「授業参観かぁ、楽しそうだねー。親子でポン!」
「………君は?」
「こーちゃんで遊ぶんだよ」
「こーちゃん、で?」
「じゃーね、おにーさん。残念無念またらいしゅー!」



それ以外には誰にも見つかってないし、ざっとーさんにもオレが抜け出して来てるってバレてないはず。オレってば優秀!
そうそう、ちゃあんと入門表にはサインしてる。出るときには出門表にもね。
じゃないとこまったさんが追いかけてくるってざっとーさんが言ってたんだ。なんか妖怪らしいよ、こまったさん。



「お、とーちゃっく!いさくくーん、遊びに来たよー」
「いらっしゃい、伊織。今日も一人?」
「ざっとーさんは仕事中だからね」



たぶん今頃は殿の警護でマコモダケ城にいるはずだ。
オレも参加する?って聞かれたけど、今日はタケノコの気分だったからやめた。
いやー、忍頭も大変だよね。最近の殿は外国かぶれで変な衣装着てるから目立って仕方ないし。
こーさかさんが警備が大変ってぼやいてた。



「そうそう、今日はお土産持ってきたんだ」
「え、本当?」
「うむ。ててててっててー、ナースふくー」
「茄子?吹く?」
「こーちゃんに着せてあげるね」



やっぱり保健室にはナース服でしょ。定番だね。
ほんとは白衣と迷ったんだけど、こーちゃんに白衣ってなんか死装束っぽいからやめた。黒衣なら死神っぽい。
あ、ちなみにナース服は城のお針子さんに頼んで作ってもらったんだー。すごいでしょ。
ナース服は男の浪漫だし、これできっと保健室の利用者も急増だな!ばっちりだ!満員御礼!
うぅん、こーちゃんってばスレンダー!腰のくびれがすごいね!



「あれ、でもこーちゃんってメス?オス?」
「元は40代の男らしいよ」



元は男……。ということは今は男じゃない?つまりは女?いや、今風に言えばニューハーフ!
すごい、こーちゃんってば時代の最先端を行ってんじゃん。後でそんなくんに教えてあげなきゃ!



「あ」
「え?」



思いっ切りジャンプして天井に手をかけ、そのまま腕の力で上がる。はっけよーい。
天井板を元に戻すと、入れ代わりのように保健室の戸が開いた。
ふいー、ききいっぱつー。



「伊作、を知らんか」
なら食堂にいなかった?」
「残念ながら」
「じゃあ、長次たちと一緒に裏山か裏々山だよ。今晩は山菜ご飯らしいから」
「そうか……すまない、邪魔したな」



髪をマフラーにできそうな人はそのまま保健室を出て行った。そしてまた入れ代わりに天井から降りる。
危ない危ない、あやうく見つかるとこだった。

煎餅をかじりながら、いさくくんが煎れてくれたお茶を飲む。
ざっとーさんみたく、もっと早くに察知出来ればいいんだけどねー。
アンテナとかひげとか触覚が人間にも付いてればいいのに。あ、アンテナといえば、



「ここにもいるんだね、って」
「え、伊織ものこと知ってるの?」
「オレのとは違うぞー」
「じゃあ同じ名前なんだ」
はたぶん、今頃おじさんだよ」



あれから15年だから、もう三十路も過ぎちゃってるね!、もう結婚してるかなぁ……。
ここにいるにも会ってみたいな。どんなのだろ、に似てるかな?
……、会いたいなぁ。コロッケとプリンが……。
あ、なんか納豆食べたくなってきた。
コロッケに納豆混ぜたら山芋食感のコロッケが出来そう。でもここ、コロッケないからなぁ。
しょうがないから山芋だけ食べに行こう。



「ちょっと山に行ってくる」
「山?に会いに行くの?」
「山芋に会いに行くのさ。ふぉふぉふぉ」
「山芋なら裏山の南東辺りにあったと思う」
「らじゃ」



しゅたっと片手をあげて保健室から出ていく。
いざ行かん、山芋がオレを待ってるぜ!













宿された兆し