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俺、神楽坂タクトはよく頼られる(押し付けられるともいう)人間だった。
駅にいると駅員でもないのに「ここへ行くのはこの駅ですよね?」と聞かれ(5m先に駅員がいるだろ!)
散歩に出掛けると、捨て猫や捨て犬が必ず俺の後を着いていく。
(おかげで歩く動物園と呼ばれていた)(誰かが捨てたであろう大蛇がついてきたときはかなりビビッた)
幼い頃なんかには、迷子になっている子に突然手を握られどうしていいのかわからず途方に暮れたこともあった。
(えーんママーって、泣きたいのはこっちの方だ!)
他にも、道を聞かれるのはしょっちゅうだし、きちんとした英語も話せないのに外国人が話し掛けてきたり、
更には落とし物を拾いまくりクラスメートからは相談事、果ては犯罪被害に遭っている人が助けを求めてくる。
生まれてこのかたやる委員会といえば学級委員オンリーだし、小中高と生徒会長にも任命された。
体質と言えばそれまで。
だけど、出来ることならこんな体質は消してしまいたい。
が、そうは上手くいかないのが人生だ。
不幸の方から寄ってきた。
まず、幼なじみからして最悪だった。
きっと俺の体質はあそこから始まったのだと思う。
幼なじみのあいつは自堕落を絵に描いたような奴だ。
悪い奴じゃあない。悪い奴じゃあないのだけれど、あいつはどうも面倒臭がりだ。
そして馬鹿だ。
放っておけば食事も摂らず、風呂にも入らず、そして睡眠すら忘れている。
自分の好きなような、思うがままに生きる。
そんな感じの奴だったから、あいつの両親ですら奴を見放し俺に頼ってきた。
自分達の息子だろう!自分達でどうにかしやがれ!と叫びたかったが、
その頃の俺は性格からしてお人好しで、正直頼られることについても満更じゃなかった。
ていうか「この子のこと頼んだよ」って言われたのは7歳の時だったし。
だから、奴の部屋を掃除してやったり、弁当を作ってやったり、勉強をみてやったり……。
(運動会の親子リレーにあいつの両親が来れないということで一緒に出たこともあった)(なぜだ……)
クラスの奴らに母親と出来の悪い息子と揶揄されることもしょっちゅうだった。
幼なじみの奴とは腐れ縁でもあったので、半ば諦めの気持ちでそいつとつるんでいた。
まあ、なんだかんだ言っても親友みたいなもんだったから、放っておけなかったし。
だが、厄介事を持ち込んでくるのはそいつだけじゃなかった。
上記にも上げたように、犯罪――まあぶっちゃけただのカツアゲとか――に遭っている見知らぬ人間が助けを求めてくる事も多々あった。
他にも失恋したこと、勉強の仕方、ナンパを成功させる方法、果ては教師が脱毛についてどうしたらいいかということで相談を持ちかけられた。
俺は、なんでも相談室じゃねえ!!ツッコミ所は満載だ。
カツアゲについてはまだいい。
俺だって、正義の味方ぶるつもりはないが、普通の感性は持ち合わせている。
犯罪は、いくらなんでも見過ごせないだろう?喧嘩慣れをしていたから、大体の不良相手にも勝ち目はある。だけど……
「全員手を挙げろ!」
目の前、ライフルを持った銀行強盗。
背後、銀行員と利用客。
その間、俺。
いくらなんでも強盗(武器装備済み)に俺(装備なし)が勝てる自信は微塵もねぇ。
ついでに言うとこちとら普通の大学生だ、立ち向かう勇気だって1ミクロンもねぇ。
自分のことだけで精一杯。無理ですから。
「お前らは人質だ。動くんじゃねぇぞ」
おいおいおいおい、これどういう状況だよ。
ていうかここは日本だぞ、銃刀法はどうした?ライフルなんか、映画でしか見たことねぇや。本物初めて。
って、そんなことよりなんでお前らは俺を盾にする。
こんな場面になってまで頼られるとは、どういうことだ。
知り合いならともかく、俺はお前らとは赤の他人だ。たまたま居合わせた一般客だ。
俺はレスキュー隊員でも警官でもねえ!ただの一般人あぁぁ!!
―――なんで俺はこうも頼られる。
今更自分のこの体質について自問自答してしまうほど、はっきり言って俺は混乱している。
どうしよう、マジで。
おい俺のすぐ後ろにいる兄ちゃん、プロレスラーみたいな体格してるくせに俺の後ろに隠れんじゃねえ!
他の奴らも俺じゃなくてこの兄ちゃん頼れよ。
いかにも強そうじゃないか、俺なんかよりもよっぽど。
何度でも(心の中で)言ってやる。
俺は一般男子大学生だ!ふざけんじゃねえ!
「お、お願い助けてください!」
「命だけは……」
「撃たないで」
「もういや……」
だぁあチクショウッ!なんだ、俺にどうしろってんだ!
ぐいぐいと前に押し出すんじゃねえ!
思わず強盗と目がばっちり合っちまったじゃねぇかよコロヤロー!
「何だお前は。ヒーロー気取りか?いい度胸じゃねぇか」
んなわけあるか!
ふざけんな!
逃げ出したい気持ちでいっぱいだよッ!
「ふふん、まずはみせしめとしてお前から殺してやるよ」
冗談じゃない。
やすやすと殺されてたまるか!
だけど、気持ちとは裏腹に身体は言うことを聞かない。
表情筋だってすっかり固まって、正直喋ることさえままならない。
悲鳴すらでねぇよ。金縛りにあったかのように動かない。
俺やべぇ。
超やべぇ。
「今日この場にいたのが運のツキだったな。死んどけや」
パンッ!
乾いた音。
ぐらり、倒れる。
生温い血。
どくどくどく。
悲鳴。
嗤い声。
弱まっていく鼓動。
うっわ、俺死んだよ。最悪。
ちくしょう、強盗の野郎め。呪ってやるならな。
俺まだ十代だったってのによ、クソ。
つか、あんまし痛くねぇんだな。心臓撃たれたってのに。
親父、お袋ゴメンな、先に死んじまって。全然親孝行出来てねぇのに。
クソやっぱ強盗野郎呪い殺す。
ああそうだ、俺が死んでもあいつ生きていけんのかな。
気が付きゃ三日飯食ってねぇとかよくあったしな。大丈夫かな、あいつ。
それだけが、こころのこり、だな………。
それが、薄れる意識の中で最後に思ったことだった。
ここから一番遠いところ