3年生になって、ようやく俺にも「後輩」なるものができた。
や、別に今までだっていなかったわけじゃねぇけど、きちんとした特定の相手がいなかった。
どういうことかってーと、つまり、学級委員長委員会に新しい奴が入って来たってことだ。ちなみに2年な。

学級委員長委員会ってのは、他の委員会と違って組で一人必ず入っていなくちゃいけない、なんてことはない。
「委員会」なんて言ってるが、ぶっちゃけただの雑用係だ。先生方御用達の。
だからまぁ、最低限の人数さえそろってりゃ問題はない。
そんなわけだから、去年の時点で1年生が入ってくることはなかった。
今年は去年6年だった先輩が抜けたから、その補充という形で1年よりも人数の多い2年から一人入った。

で、俺の目の前にはその新しく入って来た奴がいるんだが……



「は、鉢屋三郎、です……」
だ」



まさかこういう奴とは思わなかったぜ……。


話は変わるが、学級委員長委員会に入っている人間は当然だが真面目なのが多い。
いや俺はそんな真面目じゃねぇが、それはまあ置いといて。

よくある学級委員長ってのは、真面目+リーダーシップのある奴。
これは何時どんな場所でもだいたいで共通事項だ。
どちらかが欠けていたとしても、必ずもう片方を持ち合わせている。俺の場合は後者だ。
けど、目の前にいるこいつはそのどちらにも属さないらしい。
10センチほどの身長差のため、わずかながら目線を下にさげる。

ビクッ



「………なぁ、」
「ひっ……は、はいぃ!」



なぜ、俺はこんなにも怯えられる……?
ちょっと待て、俺なんかしたか?いやいやいや、なんもしてねぇはずだ。
そもそもこいつとは初対面だし。
怖がられる理由なんてない……はずだ。たぶん。



「………はぁ」



どうすりゃいいんだよ、これ。



* * * * *



「………はぁ」



目の前で先輩がため息を吐いた。
やっぱり、怒られるんだろうか……?
うう、学級委員長委員会になんて入らなければ良かった!
じゃんけんに負けたとはいえ、あの時断っておくべきだったんだ。

私は、人前に顔を曝すことがない。
これは入学したときからそうだし、先生たちだって了承済みだ。
だから去年の秋頃までは狐の面を被って顔を隠していた。
今は同じ組の雷蔵の顔を借りているけど、それがバレたら怒られるかもしれない。

私を見下ろす先輩……先輩はとても厳しそうに見える。
きっと顔を隠していると知ったら怒鳴り付けてくるんだ。
顔を隠すとは何事だー!って。
どうしよう……雷蔵、たすけて。



「なぁ三郎、んな怯えんなよ。別に取って食おうってわけじゃないんだからよ」
「は、はい」



目線を合わせながら先輩はそうおっしゃったが、それでも怖いものは怖い。
だって先輩、目付きが鋭い……。



「まぁ……いいけどな。んで、委員会の仕事を説明するがいいか?」
「お願いします」
「ああ。ま、たいしたこたぁねーけどな」



先輩はとつとつと話し始めた。


俺ら学級委員長委員会の主な仕事、それは……だらだらすることだ!
いや、んな顔すんなよ。事実なんだからよ。
あのな?俺ら学級委員長は普段からいろんな雑務を教師から押し付けられるだろ?
組でなんかやるときに指揮取んのも俺らだしよ。

それで、だ。
普段あくせく働いてる俺らは委員会の時間に休むんだよ。もちろん学園長公認だ。
なにもサボってるわけじゃない。
俺らは、他の委員会とは働く時間帯が違うだけだ。わかったか?
あ、一応雑務以外の仕事もあるぞ。
たまに学園長の思い付きで委員会対抗戦みたいなもんがあるんだが、そんときに俺らは審判役をやる。
ま、これはそう頻繁にないし、毎回内容が違うから覚えることなんざねぇけどな。



「以上で説明終わり。何か質問はあるか?」
「あの、私たちって集まる意味あるんですか……?」
「おお、なかなか鋭い質問だな」



* * * * *



「その質問の答えは至極簡単だ。それはな……」
「それは?」
「委員長の方針だよ」
「委員長の……」



鸚鵡返しに呟く三郎にああ、と頷く。
学級委員長委員会の委員長……ややこしいな、これ。とにかく、その委員長は現在の6年生だ。

実は一昨年俺も先輩に同じ質問をした。
だって授業が終わった後は絶好の金稼ぎタイムだぜ?
だらだらしてるぐらいだったらバイトした方がよっぽど有意義だ。時は金なりってな。

でもその考えはあっさり否定された。
それでも、なんで駄目なんだ!と食い下がる俺を委員長はこう諭した。
なんでも委員会活動にはもう一つの理由があるという。
学園運営の他に関わる内容、それは上下関係の形成だった。
全寮制であるこの学園で、上下関係はとても大切だ。
なぜならそれは将来に役立つもんだからな。
だけど授業は基本組単位で行われるから、普段の生活の中で他学年と関わる機会はそれほど多くない。

そこで、委員会活動だ。
下級生は上級生を敬い、上級生は下級生の手本となるような行動をする。
そして社会に出て必要となる最低限の礼儀を身につける、という目的がある。
つっても、現代っ子と違ってここじゃ親がそれなりに躾てるからそこまで酷い奴はあんまりいねぇけどな。
そんな説明を受ければ納得するしかなくなる。
上級生にとっても下級生にとっても、委員会にでることは重要だ。

あ、あとこれは学級委員長委員会に限ったことなんだが、どうにもこの委員会に入ってくる奴はよくも悪くも努力家が多いらしい。俺と違ってな。
勉強のし過ぎによる過労などを防ぐためにも委員会は必ず出なきゃならない。
十代で過労って、どんだけ努力家だよ……と思わず突っ込んだ俺は悪くない。



「まあそんなわけだから、委員会にはしっかり出ろよ」
「は、はい……」
「あとお前が俺の何に怯えてんのかは知らねぇが、長い付き合いになんだから、慣れろ」



むしろ慣れてくんねぇと俺が困る。いつまでも怖がられてたらさすがに凹むしな。



「んじゃ、委員会終了!これやるから、次の委員会もしっかり来いよー」
「え、あの」



手の平に飴を落としてさっさと退場。
いつまでも先輩と二人っきりって怖えだろうし。さっさと去りますよー。
次の委員会では仲良くなれりゃいいんだがなあ。



* * * * *



飴、もらった。
頭、撫でられた。
先輩、笑ってた。

(優しい人なのかもしれない)













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