「ゆっきっだぁぁあっ!!、見ろ!雪だ!積もったぞ、雪合戦だ!」
「だな。どーりで寒いわけだよ」



今年初、ついでに学園に来てから初の積雪。
見渡すかぎり真っ白で、見事な銀世界だ。
うるさいはずの学園が妙に静かに感じるのは、雪のせいだろうか。
……隣の小平太はうるさいが。

半纏を羽織ったまま外に出てみると、歩くたびにずぼっと足が軽く埋まる。
15センチ以上積もってんじゃないか?これ。
犬は喜び庭駆け回りって歌じゃないが、小平太は駆け回って長次は火鉢の近くで読書中だ。

にしたって、こいつはいつでも元気だなぁ。
もうすぐ上級生になんだからちったあ落ち着けよ。
よくこんな寒い中、たいした防寒具も付けずに動けるもんだ。
ある意味忍者の鏡だな、こいつは。



「どーでもいいが、小平太」
「なんだ!」
「なぜ俺を誘う」



確かに今日は珍しくバイトもなければ内職もないわけだが。
確かに今日はどう過ごそうかと考える程度には暇だったが。

なにも雪合戦なんぞに俺を誘わなくてもいいだろう。
こういう相手は長次とか文次郎とか、お前に付き合えるだけの体力を持った人間を誘ったらどうなんだ?
と問い掛ければ、しかいなかった!という解答が返ってくる。まじでか。



「長次はどうした」
「本読むのに忙しいって!」
「文次郎は」
「委員会だ!」
「留三郎を」
「出掛けているそうだ!」
「伊作じゃ」
「薬の調合中!」
「仙蔵……は、来るわきゃねーわな」



あいつは極度の寒がりだ。
んで、消去法で俺になったってわけか。
俺だって寒いのはそんな得意じゃねぇんだがなぁ。と溜め息をつけば、早く遊ぼう!小平太がせっついてきた。俺の呟きは無視か。

それにしたって雪合戦か……最後にやったのはいつだろうか。
積もるほど降るってのはあんまなかったからなぁ。
つーか、ここに生まれてから雪合戦なんてやる余裕はなかったな……。
伊織とやったのが最後か?
中3の高校受験の帰りだったな、あれは。

思い出すのは誰もいない公園。
暗くなり始めていたせいか、子供一人いなくてなんだか物寂しい雰囲気だったのを覚えている。
奴は何を思ったのか、雪合戦をしよう!と有無を言わさずおっぱじめやがった。
勢いよく当てられるものだから、乗せられてはいけないと思いつつも当て返す。気付けば全力でぶつけ合ってるし。
男子中学生が公園で雪合戦……夕方でよかった。
近所の人たちにあらあら、みたいな生暖かい目で見られんのはごめんだし。



、いくぞー!」
「は?いやちょっと待て、やるなんてまだ一言もぶっ」



顔面に勢いよく当てられた雪玉。顔に付いた雪の固まりが体温でわずかに溶け、ぼとりと地面に落ちた。
あれ、なんかデジャヴだぞ?

小平太を見れば、楽しくって仕方ないという満面の笑み。
こ の や ろ う !



「よくも、やって……くれやがったなぁっ!」



さっと雪玉を作り、全力投球。が、避けられた。

くっそ、無駄に良い反射神経が……!

ぎり、と歯を噛み締める。
俺を雪合戦に誘ったこと、後悔させてやる!



* * *



「で、一刻以上もの間たいした防寒もせずに外で雪合戦してたわけ?」
「雪合戦は外でするものだからな!楽しかったぞ!」
「いや、引くに引けなくなってな……」
「馬鹿でしょ。まったく、も小平太も二人してなにやってんのさ」



うぐ、と言葉を詰まらせる。
伊作の言葉通り、俺と小平太はあれからだいぶ長い間雪合戦に興じていた。なかなか白熱した試合だったぜ……。
雪玉を投げるだけじゃなくて、最終的には互いに罠を仕掛けたり塹壕を掘って進んだりとかなり大掛かりなことになった。
おかげで競合区域でもないのにちょっとした危険地帯だ。
留三郎に見つかる前に戻しておかねぇと。



「ちょっと!聞いてるの?」
「聞いてる聞いてる」
「まったく……二人とも凍傷になりかけてるんだよ?わかってる?」
「じゃあ風呂に行って来る!」
「ちょっと小平太っ!まだ話は……」



伊作の制止の言葉も聞かず、あっという間に小平太は保健室を飛び出して行った。
あいつ、まだそんな体力が残ってんのかよ。うまいこと伊作の説教から逃げやがって……!

開けっ放しの戸から冷気が流れ込んできて思わず身震いをする。
やっべ、身体が冷えてきたかも。
そんな俺の仕草を目ざとく見つけた伊作が、ため息をつきながら風呂に行くようにと言ってきた。



「本当はまだ言い足りないけど、風邪でも引かれちゃ困るからね。も湯に浸かってきなよ」
「おう、行って来るわ」
「はぁ……まったく、もう!」
「次は伊作も一緒にやろーな」



長次も留三郎も文次郎も、嫌がるだろうけど仙蔵も誘って。
いっそのこと梅之介とか新九郎とか、全員参加の組対抗でやるとおもしろいかもしんねぇな。
今度先生に模擬合戦として提案しておこう。絶対楽しくなるはずだ。



「次やるときは、防寒もしっかりしてね」
「わかってるよ」



さーて、風呂に行ってくるかな。


そんな、ある冬の話。













雪花純真