委員会内での一大イベントとはなにか。


この問い掛けをすれば十中八九どの委員会でもこの答えが返ってくるだろう。


それすなわち、予算会議であると。


そんなわけでもうすぐ予算会議が始まる。みんな予算の組み直しや会計報告なんかで忙しそうだ。
つっても俺は学級委員長委員会なんで関係ねぇけどな。
必要経費という名の茶菓子代は学園長から直接おりてくる。食いたい放題ってわけじゃねぇが、予算を組む必要はないわな。
そんなもんを提出したところで文次郎が予算をくれるわきゃねーし。

だからこそ周りが慌ただしい中でものんびりできるんだけど。



、いるか?」
「文次郎」



忙しいであろうこの時期に、委員会をわざわざ抜け出してまで来た文次郎。

……のんびり過ごせんのもここまでかな。

こいつがなぜ俺のもとへ来たのか、その理由はわかってる。なんせ去年一昨年もあったことなのだから。



「すまん、。今年も頼めるか?」
「今年は去年よりも早いな。……報酬は?」
「食券3枚でどうだ?……先輩方が卒業なさったからな。委員長というのはやはり大変だ」
「5枚だな。卒業された鬼の会計委員長の分、きっちりやってやる」
「……わかった、頼む」



うし、交渉成立。頼まれたぜ。

会話通り、すでに幾度かあったことだが俺は所謂「助っ人」として、予算会議の時のみ他の委員会に参加する。
本来ならば部外者なんて参加させるべきではないんだろうけど、俺はさほど関係ない学級委員長委員会だし。
そして頼られるという俺のタチと、その計算能力を買われたのがきっかけだった。
報酬である食券に釣られたともいうが。


文次郎と連れ立って学園のある一室へ向かう。言わずと知れた会計委員会の根城だ。
……なんかこうやって言うとやくざみたいだな。文次郎も人相良くないし。
いや、これ本人に言うと怒られるだろうから黙っとこ。



?」
「ああ、なんでもない。ところで今回俺は何すりゃいいんだ?」
「雑費の計算を。あと、出来ればそのほか雑務を」
「りょーかい」



がらっと戸を開ければ、そこは既に死屍類々。心なしか空気が淀んでいる気もする。いったい徹夜何日目だ?
1年は魂抜けてるし、3年の神崎は幽鬼のようだし。田村はかろうじてまだ大丈夫みたいだな。さすがに4年なだけはある。

しかし成長期だから睡眠はしっかり摂らなきゃならねーってのに、これはまずいだろ。



「文次郎、隣って空き部屋だったよな?」
「ああ」
「んじゃ田村、後輩連れて仮眠とってこい」
「い、いえ僕は……」
「いーから。お前には文次郎が仮眠とるときに頑張ってもらうからよ」



何か言いたげな文次郎をスルーして田村を説得する。
文次郎のことだ、どうせ休むことなく働くつもりだったのだろう。阿呆だ。
ふらふらと身体を揺らしながら出ていく田村たちを見送ってから腕まくり。



「おら、とっとと始めんぞ」
「あ、ああ」



文次郎に軽く蹴りを入れてあぐらになり、そろばんを手にする。
そうすれば辺りにはパチパチというそろばんを弾く音と紙をめくる音だけが響く。
こういうとき電卓が恋しくなるな。そろばんも悪かないが、いかんせんミスがあるし。

いや電卓も同じか。ま、しゃーねぇ。頑張りますか。



+++



「てなわけで、俺は寝てない。だから今回は付き合えねぇわ」
「そっか、残念」
「わりぃな」
「ううん、頼んでるのは僕の方だし。それにしても……」
「ん?」
「文次郎の奴、にだけは素直に頼るのだねぇ」



伊作の言葉に苦笑で返す。
あいつは、変なとこで意地っ張りだからなぁ。
良いんだか悪いんだか、よっぽどのことがない限り他人を頼らない。
ま、自立心旺盛なのはいいがな。もう少し周りを頼ったところでバチは当たらんだろうに。



「伊作、とりあえず警告。文次郎の奴に仮眠とらせたから、たぶん今回は激しくなるぜ」
「だよね。まったく、また薬草を仕入れに行かなきゃならないじゃないか」
「その分予算をぶん取れ」
「当然」



にやり、と人の悪い笑みを浮かべる伊作。
こわ。こいつも徹夜続きだからテンションおかしくなってんのかも。
ふんどしを包帯代わりに使われんのはごめんだから是非とも頑張ってほしいんだけどな。



「けどはいいなぁ、学級委員長委員会だもの。予算会議なんてあってないようなものじゃない」



羨ましそうに呟く伊作に苦笑した。
でも俺だってお前らが羨ましいんだぜ?みんなで一致団結して、一つのことを成し遂げようとする。
そういう体育祭みたいなノリはすごく楽しそうだ。
つまらないわけじゃないが、いつも司会役ってのも飽きちまう。

今度の予算会議は、俺らも参加しようかなぁ。



「いけどんアタックも漆喰砲弾も焙烙火矢も落とし穴だってあるからねぇ」



が羨ましいよ、と続ける伊作。

訂正、やっぱり予算会議なんてまっぴらごめんだ。













危険因子を孕んでる