「長次!!見ろ、ウサギだ!食うか!?」



目をキラッキラと輝かせながら小平太が威勢よく問うてきた。



「おい、俺たちゃ山菜採りに来てんだぞ」
「小平太……放してやれ」
「ちぇー」



耳を掴まれたウサギがぽーいと遠くへ投げられた。……大丈夫か?あれ。

俺たちは食堂当番で山菜採りに裏々山まで来ていた。
ちょっとばかり旬は過ぎたが、それでも日陰や山頂なんかの寒いところにはワラビやゼンマイなんかの山菜がまだ生えている。
今日はこれらを使って山菜ご飯にするらしい。
個人的にはタケノコご飯がよかったが、先日の雨に続きここいらの晴天ですっかり竹になちまった。残念。
山菜以外にも、以前伊作が欲しいと言っていた薬草が生えていたのでついでとばかりに採取する。あとで届けてやろっと。



「なぁ、もうこのくらいでいい?」
「うお、すげー集めたな」



しばらく静かだと思ってたら、小平太は竹籠に山盛りの山菜を入れて戻ってきた。
さすが、普段委員会で走ってるだけのことはある。穴場とかあんのかな。



「なっ!これだけあれば十分だろ!」
「ああ」
「二人とも先に帰っていいぞ。俺はもう少し色々と採ってから行くから」
「わかった」
「また後でな!行こう長次、学園まで走るぞ!」



いけいけどんどーん!といつもの掛け声を叫びながら走り去る。
あいつら、いや小平太はいつも元気だなぁ。

二人を見送ってから再び山菜と薬草取りに専念する。
うろうろと歩き回っていると、遠くの方で声が聞こえてきた。



* * * * *



「さんのすけー!さもーん!どーこーだぁぁ!」



いつものように声を張り上げて二人の名前を呼ぶ。
せっかく外出届出してまでうどん屋に出かけたってぇのに、結局これだ!やっぱり藤内を一緒に連れてくればよかった……。
あいつらはどこまで行ったんだろう。たいして離れてなきゃいいけど。



「さーんーのすけー!さーもーんんー!」



いつもならこのあたりでどちらかが姿を現すってぇのに、ちっとも出てきやしない。
……まさか、タチの悪い山賊とかに襲われたとか。実は全然検討違いのところを探してたとか。迷子になってるのはあいつらじゃなくて俺の方とか……!
ぐるぐると悪い方向へばかり想像が膨らんでいく。

やっぱり一度学園へ戻って助けを呼ぼうか?だめだ、そんなことしたら迷惑がかかる。それは最終手段。
もう少し探してからにしよう、と再び声を張り上げた。



「さぁもぉぉん!さーんのすけぇえ!」
「三之助と左門ってこいつらのことか?」
「ひぃっ!……って」
「さくべーただいまー」
「どこ行ってたんだよ作兵衛」



背後から突然かけられた声に飛び上がるも、左右にいたその姿に肩の力を抜いた。よかった、無事だったのか。
よく見れば、手を繋いでいるのは顔見知りの先輩だ。ほっと息を吐いた。
けれど、そんな俺とは対照的にいつもの間抜け面を曝すこいつら。その様子を見ていると、安堵の気持ちがふつふつとした怒りに変わる。



「お前らどこ行ってたんだっ、急にいなくなりやがって!」
「作兵衛がどっか行ったんだろー?」
「お前らが迷子になってたんだよ!この方向音痴!」
「左門、方向音痴なのか?気をつけねぇと駄目だぞ」
「お前も方向音痴だわ馬鹿野郎!」
「まあまあ、そのへんにしとけよ富松」



頭に血が上るも、先輩の声で我に返る。
先輩は迷惑をかけたっていうのに嫌な顔もしないで、微笑みながら俺たちを見ていた。
まだ入りたての一年生でも見るようなその視線に頬がかあっと熱くなる。
食満先輩もよく頭を撫でてくるけど、それとはまた違って気恥ずかしい。
俺はなんとかこの恥ずかしさを払拭しようと声を上げた。



「あっ、あの!こいつらのことありがとうございました、先輩!」
「ん、気にすんな。それよりも腹減ったろ?早く帰んぞ」
「はい!」
「ほら、手ぇ繋ぐぞ。富松、お前先頭歩いてくれ」



はい!と再び返事をして、学園へ向かって歩き出した。
やっぱり先輩は頼りになるなぁ。俺もこんな風になりたい。



* * * * *



「よ、伊作」



医務室の戸を開けると、そこでは伊作がごりごりと薬草を煎じていた。グッドタイミング。
途中で後輩が二人ほど迷子になってるのを拾ったからちっとばかし遅くなっちまったが、大丈夫だったみたいだ。



。どうしたの、怪我でもしたかい?」
「いんや。山菜採りのついでに薬草も見つけたんでな、いろいろ持ってきた」
「ほんと?わ、ありがとー」
「特別に食券1枚でいいぜ」
「……だと思ったよ」



しょうがないね、とため息混じりに返す伊作に薬草を渡す。
ふと部屋の隅に急須と湯呑みが置かれているのが目に入り、来客か?と聞いた。

食堂や学園長の庵ならともかく、ここに?



「ああ、うん。ちょっと知り合いがね」
「珍しいな」
「まあね。あ、のこと知ってるって言ってたよ」
「なんだ、俺も知り合いか?」
「ううん。あっちの知ってるはおじさんだってさ」
「あっそ」



ただ同名なだけじゃねぇか。って名前も珍しいが、まあいないわけじゃねぇし。
伊作を軽く小突いて、医務室を後にした。

さてと、内職でもすっか。













その手に勇気はありますか