「隠れ鬼大会?」
「そ。ちなみにこれが詳細な」
「ドキッ!忍たまだらけの隠れ鬼大会〜賞品もあるよ〜…って、これ考えたの先輩でしょ」
「わかるか?」
「わかりますよ。先輩ってたまに妙なことしますよね……」
いや、こういうのは定番がいいだろ?やっぱ。
委員会の時間、俺たちは明日やることになったレクリエーションの打ち合わせをしていた。
もちろんこれは例に違わず学園長の思いつき。
今回やる隠れ鬼っつーのは、かくれんぼと鬼ごっこを合体させたもの。
まずはかくれんぼをして、鬼に見つかったらそのまま鬼ごっこがスタート。
かくれんぼは見つかったらアウトだけど、隠れ鬼はそっから逃げ切ることができればセーフだ。
鬼は5、6年で、4年以下が逃げる役。捕まえて捕虜スペースまで連れてこなきゃカウントはされない。
だから逃げ切れりゃ見つかっても問題ない。けど……下級生が上級生から逃げ切れるわきゃねーよなあ。見つかったら即アウトだろ。
「先輩、賭けません?どっちが勝つか」
そんなことをつらつらと考えていると、三郎がこっそりと話を持ちかけてきた。お前好きな、そーいうの。
ま、俺も嫌いじゃねーから話には乗っかる。ただ審判やるだけじゃつまんねぇし。
「いいぜ?どっちに賭けるよ」
「鬼ですね」
「……賭けになんねぇな」
「じゃあ俺が下級生に賭けますよ」
「勘右衞門、いいのか?」
「当然です。勝ちますよ、俺」
やけに自信満々なその様子に訝むも、とりあえず賭けが成立したのでよしとする。
負けた方は勝った方に一食奢るってことで。
実際には参加できねぇんだし、このくらいの楽しみはないとな。
「そうだ、庄左ヱ門と彦四郎は見張りな。不正防止の」
「審判はやらなくていいんですか?」
「一年にゃちょっと難しいだろうからな。捕まった奴らの見張りを頼むわ。あと周囲の見回り」
「はい」
「ところで先輩、賞品って何です?」
「知らね。学園長が考えてるとこだ」
変なもんじゃなきゃいいけどな、と苦笑い。
賞品に関しては、鬼の場合は捕まえたのが1番多い奴。
逃げる役の場合は最後まで残ってた奴。
あと、その学年にもそれなりに特典があるらしい。たぶん課題が少なくなるんだろ。もしくは食券とか。
今回はある意味学年対抗だから、個人戦の時より派手になりそうだ。
ま、ともあれ俺ら学級委員長委員会は審判だ。いつも通り、適当に頑張るとすっか。
* * * * *
「ざっとーさん、オレ今日の仕事終わったから遊びに行ってきてもいー?」
書類仕事から解放されて、うーんと伸びをしながら後ろに倒れ込む。
今日は任務ないし、書類真面目に終わらせたから時間が余ってるのさ!ひゃはーい伊織くんってば優等生じゃん!
うきうき気分でどこ行こっかなーって考えてたのに、そんなんくんに怒られた。
「早く仕事が終わったからって遊んでいいはずがないだろ!」
「えぇー、そんなんくんにはぁ聞いてないしぃー」
「その言い方やめろ、気持ち悪い。組頭も何か言ってやってくださいよ」
「伊織、遊ぶんじゃなくて偵察と言いなさい。もしくは潜入捜査」
「じゃ、それで」
「組頭!伊織も!」
怒るそんなんくんに手を振りながら、いってきまーすと外へ出た。
そんでもってやってきたのはいさくくん家。
そう、忍術学園の保健室です!
いつもみたいに天井裏から覗いてみたけど、残念無念いさくくんは留守だった。
あーあ、せっかくおいしいって評判のお団子買ってきたのに。
お金ないから2本しかないけど。2本でも美味しいよ。美味しそうだよ。
……見てたらお腹空いてきたし、食べちゃえ。うまー。
もっちゃもっちゃと口を動かしながら梁に腰をおろす。
さてさて、どうしよっかな。いさくくんいないし、帰ろっかな……。
でもなんか隠してるのかよくわかんない気配が3人分あるんだよね。怪しさ満点だよ。
あ、もしかしてあれかな。いさくくんが言ってた不運委員会の後輩とか?
……見てみたいなぁ。よし、降りよっと。
「おっじゃましまーす」
あれ、いない。
ついたての後ろ、襖の向こう、押し入れの中……あ、いた。
なんか小さいのが3人、肩を寄せ合って眠ってる。仲良しさんだ。
いさくくん来ないかなー、なんて思いながらその3人の様子を眺めていると、鼻ちょうちんがぷくーっと膨らんできた。
おおすごい、鼻ちょうちんなんて初めて見るかも。
「えい」
パチンッ
団子の串で鼻ちょうちんを刺せば、小気味よい音を立てて割れる。
その音で目が覚めたのか眼鏡をかけた子がうーんと瞼を開いた。
「おはよー」
「ひっ」
「ひ?」
「ひぎゃぁぁああーっ!」
* * * * *
「んだって?侵入者?」
「はい。今5、6年生で対応中です」
「最初に遭遇した乱太郎たちが言うには、千本を持っていたそうですよ」
「乱太郎たちって、あいつらに怪我は!?」
「ないようです。乱太郎が悲鳴を上げたと同時に姿を消したそうです」
そうか、と息をつく。ったく、人がトイレに行ってる間に侵入者とか、ふざけんなよ。
見知らぬ侵入者に憤慨しつつも、急いで状況確認をする。
勘右衞門の話によると、侵入者はおそらく一人。ってのも、入門表に学園関係者以外の名前はそれしかなかったらしい。
小松田さんが不法侵入を逃すわけがないからこの情報は確実だろう。
教師陣もこの事態は把握しているが、ひとまずは傍観態勢。
学園長曰く、「お主らだけでなんとかしてみよ」だと。
てことは、侵入者は無差別に殺しまくるような気狂いじゃないってことだ。まだ楽観視はできねぇが。
対侵入者用、とりあえずの方針は仙蔵が打ち立てたらしい。
4年以下はまだその存在を知らず、また余計な混乱を招くかもしんねぇから知らせるつもりもない。
5、6年が下級生を探すふりをしつつ、侵入者探しにも当たっていく。
……つーか5分も空けてねぇのに早いな。俺だけアウェーかよ。
ため息を漏らして、俺に知らせるために残っていた二人に、指示を出す。
「三郎、勘右衞門。お前らは既に捕まった下級生守っとけ。敵が襲って来たら対処頼むぞ」
「はい」
「先輩は?」
「俺は状況を見て援護にまわる。出遅れた分、誰かもう対峙してっかもな」
「先輩、お気をつけて」
「お前らも。下級生に気取られんようにしろよ」
よし、と走り出した。まずはあいつんとこに行ってみるか。
* * * * *
「兵助、どう?」
「いや、だめだ。……あいつらも上手く隠れるようになったなぁ」
「先輩として、感慨深い?」
「そうだな」
うーん、これってやっぱオレを探してんのかな。
さっきからやたらとぴりぴりしてるし。えー、これバレちゃった?
木の上から何だか物々しい雰囲気の子たちを眺める。
話から察するに、さっきみたいなちっさい子たちを探してるみたいだけど、それにしちゃ、ねー。
声固いし、表情険しいし。学園総出で探されてんのかな、オレ。
この前ざっとーさんはいさくくんの友達に勝負挑まれたって言ってたし、ありえそう。
うん。いさくくんも見つからないし、帰ろっかな。
もしも捕まったりしたらざっとーさんに怒られちゃう。いや、怒るのはこーさかさんとかそんなんくんか。
「よし、やっぱかーえろ、う?」
……鷹子さんだ。何でこんなところに?
「いた!あそこだ、木の上!」
「さすがハチ!」
「げっ、やば……見つかったー?」
まさかの獣遁だ。
逃げようにも木の下には二人、近くの木にも一人いるし。
目立つけど、屋根にでも飛び移ろうかな。
あーもう、これ絶対怒られる。なんとかして逃げないと。
いさくくんの不運がうつったのかなー。こういうとき、顔が隠れるように暗部のお面とかあればいいのに。
オレは火影になるんだってばよ!……ならないけど。
まあるい虹を追いかけて