目的地へ向かう途中、蛸壷から出てきた伊作と遭遇した。
おいおい、こんな時まで不運発動かよ。



「大丈夫か?伊作」
「あ、!丁度よかった、侵入者なんだけど」
「ヤバいことにでもなったか!?」
「いいや、そうじゃなくて……侵入者、もしかしたら知り合いかもしれないんだ」
「……はあ?」



よくよく話を聞いてみると、ちょくちょく学園にやってくる例の組頭ではないか、と伊作は言う。
けどそれは妙だ。あの包帯忍者であれば、見つかるなんてヘマはしないだろう。
それに乱太郎たちとも顔見知りのはずだから、少なくとも侵入者扱いされるわけがない。

そう指摘すると、伊作は考え込み、じゃあもう一人の方かもしれない、と言った。



「もう一人?」
「うん。最近よく遊びに来るんだけどさ、」
「ああ、あの」
知ってるの?」
「何回か顔は見たことがある」



確か土井先生に何回か勝負を挑んで、その度に返り討ちにされてる奴だよな。名前は知らねーけど。
でもあの忍者だって包帯忍者と同じように乱太郎たちは顔見知りじゃねーのか?

そう問い掛けようとしたところで、文次郎がこちらへ駆けてきた。



、伊作!裏庭だ!」
「侵入者か!?」
「今5年の奴らが抑えてる!」



走りながら告げる文次郎に、おうと返して後に続く。
ま、侵入者がその部下であってもなくても、直接顔見りゃわかる話だしな。



* * * * *



あーヤバいなぁこれ。ほんとどーしよ。
この前こっそりそんなんくんに仕事押し付けたこと謝るから、助けにきてくれないかな。無理か。

飛んでくる手裏剣も苦無も拳も脚も、弾いてかわして受け流す。さすがに3対1はきっついって。
左右前後から同時に足払い、飛び上がって避けたところに頭上から鉤縄。コンビネーション半端ないなー。

逃げるにも囲まれてるし、だからっていさくくんの後輩に怪我させるわけにもいかないし。
ていうかモタモタしてたら援軍来る。さすがにこれ以上は無理だし。

たすけてー、コンなもーん!
あーきっつ。あヤバい。援軍来たっぽい、一人?……いや、三人かな。



「大丈夫かお前ら!」
「先輩!」
「一旦下がれ!すぐに他の奴らもくるから安心しろ!」
「はいっ!」



うわー、隈すごいねこの人。装束の色からしていさくくんと同い年か。
一対一ならともかく、まだ援軍はあるし……ん?あ、いさくくんかも、この気配。

やった!と喜んだところに苦無が飛んでくる。まずは小手調べ?
弾き返す間にこちらへ迫ってきた忍刀を後ろへ飛びのいて避ける。
あっぶな、紙一重!ひとまず距離をとってから小石を投げて牽制。手持ちの武器もあんまりないし。
じりじりと距離を図りながら対峙していると、いさくくんの気配がすぐそこに迫って来てるのがわかった。あ、もう一人いるっぽい。

ふはー、助かったあ。

走ってきたいさくくんが叫ぶ中、その後ろからもう一人が現れて―――



* * * * *



途中またもや蛸壷に落ちた伊作を助けて、文次郎に遅れをとりながらも裏庭へ急ぐ。

つーか伊作の奴落ちすぎだし。この非常時に、不運ってレベルか?
でもだからって放っていくわけにもいかず、さっさと引き上げる。
伊作の方が足は速いから先を走っているが、それが間違いだったのかもしれんな。

裏庭へ向かう最後の曲がり角、先行く伊作が文次郎に向かって制止を叫んでいた。
やっぱりタソガレドキの忍だったのか?



「文次郎ちょっと待って!」
「なんだ!」
「その人っ……!」



伊作に追いつき、今回の騒動の元凶である侵入者の顔を見て―――



* * * * *



「はぁ!?」「あれ?」



* * * * *



「おま、伊織?は、ちょっと待て……え、なんでいんだよ」



あまりにも見慣れ過ぎた、けれども15年振りに見る姿に困惑する。

え、つーかおかしい。だってあれだろ?俺向こうで死んだからここで生まれてんじゃん。
あいつ死んでないのになんでいるんだ?化け物の術?他人の空似?ドッペルゲンガー?伊織の前世?わけわかんねぇし。

互いにじーっと見合う。
伊作が横で「やっぱり知り合いだったの?」なんて聞いてるけど、知らん。
観察しながら考えていると、伊織(仮)の方が先に口を開いた。



「おじさん!コロッケとプリンは!?」



……結論がでた。この脈絡のなさ、ぜってー伊織だ。

ため息を一つ零し、伊織にんなもんねぇよ、と返す。
それから訝しむ文次郎たちに向けて言った。



「わりぃ、ひとまずここは俺が預かっても良いか?」
「……平気なのか」
「ああ、大丈夫だ」
「わかった。先生方にも危険はなくなったと報告しておこう」
「助かる」
「ただし!、てめぇ後で説明してもらうからな」



絶対するよ、と苦笑いで返した。
久々知たちにもすまなかった、と謝る。

気配が全部遠ざかっていったところで、伊織を見た。



「久しぶり……っつーのも何か妙だな」
、今いくつ?」
「15。お前もそんくらいだろ?」
「そだよー、同い年!今オレざっとーさんとこでお世話なってる」
「ざっとーさん?もうちょい詳しく……いや、いい。今はあんま余裕ないしな」



いくら文次郎が説明しておいてくれるとはいえ、長話している時間はない。
仕方ないとはいえ、せっかく会えたのに。
けど伊織がいるってことがわかったからまた会うことはできるだろう。
こいつが今までどこでなにやってたのかも気になるし。

そのためにもどこで会うか決めないとなーと考えていると、伊織が突然笑い出した。



「うへへへ」
「なんだよ」
にまた会えて嬉しいなーって思った。サンバ踊る?」
「踊んねぇよ。……でも、そうだな。俺もお前にまた会えて嬉しい」



子どもの様に笑う伊織に、つられて笑った。



* * *



積もる話はまた今度するとして、ひとまず伊織から事情を聞き出した。
結果、侵入者騒ぎはただの勘違いということに。
つーかこいつがそんな行動とらなきゃよかっただけのことだけど。

まあこれに関しちゃ俺も人のこと言えんが。
だって入門表を確認しときゃもっと早くわかっただろうし。
慌ててたっつーのもあるが、タイミングが悪かったんだよなぁ、俺の尿意。



「オレ、ビンゴブックに載ったりするかな」
「そりゃ忍違いだっての」



実際になんか危害加えたわけでもないからな。学園のブラックリストに載ることはないだろう。
他愛のない話をしていると、大会終了の合図を知らせる鐘が鳴った。あーあ。

お互いに再会の約束を交わすと、伊織は塀の上へ。
なんの躊躇いもなく帰ろうとするその姿に、思わず叫んだ。



「伊織!」
「なにー?」
「いや……またな」
「ふひひ、まーたねっ!」



ちょっとだけ振り返った伊織の顔は、あの頃と同じ。
笑った顔になんとなく気が抜けて、いつものように手を振った。

またね、か。



* * *



「と、いうわけで隠れ鬼大会は下級生組の優勝!」



わあっと歓声が上がる。
結局、侵入者騒ぎで途中から上級生が抜けていたため、下級生の勝ちとなった。
最後の30分くらいはラストスパートでかなり捕まえたらしいけど、それでも無理だったようだ。

ちなみに生き残りは次屋・神崎の3年迷子コンビだ。大会終了後に捜索隊が組まれたのはいうまでもない。

校庭の後片付けをしていると、勘右衞門がにこにこと笑いながら近付いてきた。



せーんぱいっ!」
「あ?」
「賭け、俺の勝ちですね!明日のお昼、楽しみにしてますよ?」
「は?………あ、」



しまった、そういや勝敗を賭けてたんだった……。あーちくしょう、俺負けだ。

つーか誰が上級生負けると思うよ。普通は上級生勝つだろうに、勘右衞門の奴こうなるって知ってたのか?いやいやまさか。

つかなんで上級生負けたんだ?侵入者騒ぎのせいか。侵入者って伊織か。伊織のせいか。



「伊織のバカヤローめ」
「先輩?」
「あぁくそっ!わかったよ、明日の昼だな!好きなだけ食え!」
「やった!」



頼むからほどほどにしてくるよ……。
無駄かもしれないが、一応そう念押ししておいた。

くっそ、伊織のバカヤロー!













見出した結末