「なぁ留三郎」
「んー?」
「俺はろ組の学級委員で、お前はは組の用具委員じゃん」
「おー」
「なんで俺はお前と二人で補修作業に勤しんでんだ?」
「小平太が壊したからな」
「阿呆か。俺は小平太の保護者じゃねーぞ、長次に頼め」
「長次は委員会だとよ」
「加害者の小平太はどうした」
「裏々々山まで委員会」



……毎回思うが体育委員会って走ることが委員会活動なのか?それともただの委員長の趣味か?

トントンと木槌の音が響く。現在、俺と留三郎は長屋の補修作業に勤しんでいる。
部屋の壁には見事な穴。

どーやったらこんな穴が空くんだか。
いっそのこと一から作り直した方が早いんじゃねぇか?



「あいつの馬鹿力はもはや才能だな」
「役に立たねぇけど」
「まったくだ」



その後もしばらく二人で喋りながら作業を続けていった。



+++



「さて、と。補修も終わったことだし」
「次は買い出しを頼む、
「……まだ手伝わせる気か」
「どうせ暇だろ?」
「俺に暇なんて言葉はねぇよ。時間がありゃ金稼ぎに決まってんだろ」
「そう言うなって。俺とお前仲だろ?」



にやにやと笑う留三郎。
ったく、しょうがねぇなぁ。この間古くなった大八車を譲ってもらった借りもあるし、折れてやろう。

外出届けを出して門をくぐる。
買い出しは、当然のことだが町へ行くのだという。
とは言っても、金物屋と鍛冶屋で注文していた品物を受け取るだけ。俺は荷物持ち要員だってよ。
本当は委員長と行く予定だったのが、急な実習でダメんなったらしい。
さすがにんな重いもんを一人で買いに行くこともできず、困っていたところに俺が来た、と。

用具は少人数で大変だよなぁ。力仕事が多いってのに。



「なぁ、なんかあっち騒がしくないか?」
「あれだろ、大前屋が新しいもん売り出したっていう」
「なにを?」
「知らん。あそこは外から色んなもん買い付けてるから、また目新しい商品でも仕入れたんだろ」



梅之介あたりだったら見に行こう!と腕を引っ張られるが、留三郎はあまり興味がないらしい。
ふぅんと呟いて終わった。
こういうのには意外と淡泊なんだよなぁ、こいつ。



「あ、ほら金物屋」
「おう。買ってくるから少し待っててくれ」
「はいよ」



店先で町行く人々を眺めながら留三郎を待つ。いー天気だなぁ。
ぼーっとしながら待っていると、いろんな会話が耳に入ってくる。

呉服屋の入り婿が病に倒れたんですって。
腹減ったなぁ、なんか食いに行こうぜ。
はやくはやく!おっかさんがまってるよ!
おじいさん、お土産に団子でも買っていきましょうよ。
おい、大前屋のとこで喧嘩だってよ!行ってみようぜ!



「なんだ、新商品じゃなかったのか」
「なにが?」
「ん?さっきの大前屋の話。で、もういいのか?留三郎」
「ああ、まあな」
「んじゃ次行くか」



よっこいせ、と荷物の分だけ重くなった大八車を引いて鍛冶屋へ向かう。
金属だからそれなりに重い。鍛冶屋に行った後にはさらに重くなることだろう。
こりゃ確かに一人じゃきついな。

やがて着いた鍛冶屋では刀などの武器を受け取り、買い出しは終了となった。
荷物を乗せるととたんに腹が呻いた。

そこへ留三郎の気の利いたひとこと。



、昼飯奢るぜ。素うどんか盛そば限定で」
「じゃ、間を取ってかけそばで」
「かけそばかよ」
「かけそばだよ」



安上がりだろ。
近くにあった美味いと評判の店で俺は宣言通りかけそばを、留三郎はざるそばを頼んだ。
どうでもいいが、こいつだって自分が提案したものを選ばずに注文してるじゃねぇか。
安けりゃなんでもいいのか。
奢ってもらう身で文句は付けねぇけど。


しばらく二人で馬鹿話をしながら蕎麦をすすっていると、



「あ、雨」
「げぇー、マジかよ」



先ほどまでの快晴とは裏腹に、ぽつぽつと雨が降り出した。
……まあこのくらいの雨なら平気か?
本降りになる前に帰ろうと、俺たちは急いで蕎麦を啜った。

笠でもありゃ良かったんだが、雨が降るだなんて予想はもちろん二人ともしていなくて学園に着く頃にはぐっしょりと濡れそぼっていた。



「ずぶ濡れだな」
「まったくだ、酷い目に遭ったぜ」
「留三郎、お前伊作と同室だから不運でも移ったんじゃねぇの?」
「はぁ!?それを言うならが雨男なんだろ!」
「なに言ってやがる。俺は生粋の晴男!……だったらいいな」
「願望だろそれ」



いやだってわかんねぇし。
そう答えたところでくしゃみを一つ。思わずぶるりと身震いをする。

……こんなとこでぎゃーぎゃーと言い争っててもしょうがねぇよな。
さっさと荷物運んで風呂にでも入ろうぜ、と留三郎に持ちかける。

門をくぐって用具倉庫へ向かうと、吉野先生がそこで待ち構えていた。



「二人ともお疲れ様です。雨の中ご苦労様でした」



仕舞うのはやっておきますから、あなたたちはお風呂へ行ってきなさい。
そう言う吉野先生が仏に見えた。



風呂に浸かれば余裕も出るもの。
横にいる留三郎を見ながら言ってやった。



「なぁ留三郎」
「んー?」
「ちゃんと俺にも分けろよ」
「……何をだ?」
「知ってるぜ、お前用具委員長に詫びとして饅頭もらったろ」
「バレたか」



笑う留三郎に当たり前だ、とお湯を飛ばした。













買い物に行こう!