「たまたま忍務で近くまで来たから」そんな理由でに会いに来て、もう何度目になるだろうか。
いや、「会いに来た」というと語弊がある。なぜなら正面から来たのではなく、屋根裏から覗いているのだ。
そうだな……様子を見に来た、とでも表現しておこうか。



「私は断然大きさだな!大きいのは最高だ!」
「阿呆、デカけりゃいいってもんじゃない。形が大切なんだよ、何事も」
「ぼくはどっちでもいいけどさー、それよりもやっぱり感度じゃないの?イイ反応を返してくれる人が好きだなぁ」



……やれやれ、若いねぇ。真昼間から猥談とは。
あの表情から察するに、は新九郎くんと同意見かな?私は形よりも感度派なんだけれど。
小平太くんが巨乳派というのはまあ納得だ。他の顔ぶれ、長次くんは話には加わらず春画を眺めている。
彼はムッツリタイプだな。
春宣くんも同じく話には加わっていないが……彼は確か女系家族だから、きっと何も語ることはないのだろう。
女系家族は……それはもうすごい。
以前忍務で侵入したことがあるが、男が少ないだけでこうも違うものか、と頬が引き攣った覚えがある。
女とは実に恐ろしい生き物だ……。



「なあなあ。私たちが女になったら、誰が1番おっきなおっぱいになるだろうな」
「そりゃムナシ過ぎる話題だな……」
「いいじゃん、面白そうだよ」
「だろう?私が思うに、長次と春宣は絶対巨乳だな!」
「あー、それはわかるかも」
「確かに」



いつの間にか話題は変わり、今度はもしもの話になっている。
女に、が女になったら……きっといいお嫁さんになるだろう。
面倒見が良くて料理が出来てしっかり者。引く手数多にちがいない。
誰にもやらないが。そうだ、胸の大きさはきっと、



は普通そう。あと梅之助も」
「普通かよ」
「そーだよ」



は普通かもしれないが、形は良いに違いない。そうに決まってる。
それにいい女の条件は胸の大きさじゃない。安心していいよ、



「その理論でいくと、新九郎は小さいな」
「どんな理論さ」
「仙蔵もじゃない?」
「い組の?」
「そう」
「あー、そんな感じするねー」



うんうん、と全員が頷き合う。梅之助くんはなかなか的確な表現のできる子だ。



「空気になれたら……本物を見に行ける、な」



それまで春画を見ていた長次くんが話に加わった。空気人間……忍務に便利そうだ。



「いいな!空気ならどこへでも行けるぞ!」
「女風呂覗きたい放題ってこと?」
「花街にも行けるよ。触れないだろうけど」
「タダならいいじゃねーか」
「サイコーだね!」



わっと一気に場が盛り上がる。
というか君たち、仮にも忍者の卵なんだから誰か一人くらい「忍務で使えそう」という発想は出ないのか。
いやいや、これも若いってことかな。ふう、と思わずため息をつくと、小平太くんがん?と視線をこちらへ向けた。
幸い気付いたというわけではなさそうだが、不思議そうな顔で天井を見上げている。そろそろ帰るか。
が入学した時からたびたび訪れているが、最近は見つかりそうになることが増えた。
当初と比べると、この子たちも成長したということだろう。まあ、まだまだだが。
天井裏から足早に進むと、同業者らしき人間に遭遇した。
だが……と同じくらい、か?こんな所で出会ったというのに、たいした警戒心もなくきょとんとしている。
今までで一度も見たことのない顔だから、恐らく「忍たま」ということはないだろう。



「おにーさん、先生?」
「いいや」
「じゃあおとーさん?」
「………みたいなものか」



相手に敵意がないのも相まって、ついつい答えてしまった。
父親かと聞かれれば、否と言うが、だからといって兄というわけではない。
ときり丸は兄弟だが、私はその範疇には入らないのだ。
家族、というのが一番しっくりくるように思えるが、にはきっと否定されるだろう。
居候って柄でもないしな……。今度に聞いてみようか。



「ふぅん。おにーさんの子ども、そんなに出来が悪いの?」
「まさか。よく出来た子たちだよ。ちなみに私の子じゃないがね」
「授業参観か、楽しそうだねー。親子でポン!」



この子は人の話を聞かない人種か……?少しばかり会話がかみ合っていない。
先ほどからこちらのことばかり話しているので、少しはこの子どもが何者なのか聞き出そうとこちらから口を開いた。



「君は?」



言外に「何をしに来た?」と尋ねる。子どもはへら、と崩した顔であっさりと答えた。



「こーちゃんで遊ぶんだよ」
「こーちゃん、で?」
「じゃーね、おにーさん。残念無念またらいしゅー!」



……結局、意味のわからないままに子どもは去ってしまった。
まあいい。学園に遊びに来たということは、いずれまた遭遇するだろう。
ふ、と息を吐いて学園を後にした。



***



それからしばらくして、長期休みで帰ってきたにこの間のことを思い出したので聞いてみた。




「んあ?」
「この前聞かれたんだが、私とときり丸の関係とは、いったい何だろうか」
「はあ?」



訝しみながらも、ははっきりとした声で言った。


阿呆なこと言ってんじゃねぇよ。んなもん、家族以外の何があるってんだ。


お前頭大丈夫か?と顔をしかめるに、幸福を感じた。













桃色思考に溺れたい