転生、というものに俺は酷く憧れを持っていた。
高校に入ってすぐ、隣の席の奴に薦められたのは所謂ネット小説というやつ。内容は、冴えない高校生が戦国時代に転生する歴史転生もの。 武将の家柄に生まれた主人公はその知識を活かして領地を発展させ、最後には天下統一するというもの。 これが見事にハマった。ストライクだった。

それからというもの、俺はネットで歴史転生ものを読みあさり、オリジナルのものを読み尽くすと次は二次創作物に手を出した。 とにかく転生ものを次から次へと読んでいった。 特に好きなのは内政の成り上がり。戦っていくのも悪くはないけど、内政ものの方が親近感があったしな。 転生ものはだいたい2パターン。気が付いたら転生と、死んだと思ったら転生だ。
俺はその2つともに、いつどこで自分の身に降り懸かろうと対応出来るように歴史について勉強しまくった。あと政治についても。 いつの時代に転生してもいいように西洋東洋関係なく広く深く勉強した。おかげで日本史や世界史のテストじゃいつも満点だ。 例の隣の席の奴は「厨二乙ww」とか言われた。うるせえ。

歴史と政治だけじゃ足りん、と役に立ちそうな雑学も詰め込んだ。治水とか食物栽培は内政の王道だからな。 そんなわけで俺はいつ転生してもいいように準備万端にしていた。


そして最初の決心から5年が過ぎ、俺が大学生になった頃にそれは起きた。 大学コンパの帰り、俺は飲酒運転の乗用車に撥ねられる。ちなみに自殺じゃない。いくら転生したいからって、自殺なん かしたら迷惑だ。それこそ「厨二乙ww」と笑われる。とにかく、撥ねられた俺は死亡。

そして気付いたら―――転生していた。
しかも転生先は日本!武家!そして大名!極めつけに戦国時代!ktkrひゃっほう!神様ナイスΣd(`∀´*)
これはあれだ、内政チートルートですねわかりますwwよく読んだ小説のようにまずは城の中から改革するぜ!将来は天下統一か? いっちゃう?いっちゃう?(´艸`)



………なんて思ってた時期が、俺にもありました。人生そんなに甘くないってことがよくわかったよ……。

俺の父ちゃんは確かに大名だったけど、母ちゃんはただの女中だったらしい。つまりは身分の低い妾腹から生まれたってわけだ。しかも三男。 それなのに俺ときたら転生だチートだとまだ1歳を過ぎたばかりだというのに喋りまくり、政に口を出そうとした。
あの頃の俺を殴りたい。なぜそんなことをしたんだ……!
おかげで狐憑きだの祟りだのと騒がれ、虐待こそされなかったものの、まるで腫れ物のよう な扱いを受けて3歳になる頃には山に捨てられた。なぜこうなった……!



だが神は俺を見捨てちゃいなかった。
3ヶ月ほど山で暮らしたのちに救いの手が差し延べられたのだ!やっほい!ワーイ♪ゝ(▽`*ゝ)(ノ*´▽)ノワーイ♪

俺を拾ってくれた人、師匠は、この戦国時代でも一人で生きていく術を教えてくれた。 つっても知識はもともとあったから足りない部分を補っただけで、そのほとんどが戦闘術。 だってこの時代って危ねーべ?徴兵とかあるし、山賊とか海賊とかいるし((゜Д゜ll))

そんなわけで俺は強くなった、と思う。でも正直自信ない。師匠んとこで暮らし始めて2年くらい経ったころに弟弟子が 出来たんだけど、ぶっちゃけそいつのが強い。師匠も「こいつには天賦の 才がある!」とか言ってたしww俺のが兄弟子なのに俺より強いとか===(´□`;)==⇒グサッ!
しかも師匠の名前継いだのも弟弟子の方。
なんかよくわかんないけど、師匠は流派とかそういうもんを持ってたらしい。で、俺も免許皆伝みたいな のはもらったけど、名前は継がせてもらえなかった。
「お前には私の名前 を継いでもらう。次の風魔小太郎はお前だ!」ビシィッで指されたのが弟 の方とかww俺超涙目wwww
ていうかこの時思い出したんだけど、風魔小太郎って忍者だったよな?あれ、師匠忍者?弟……いや、小太郎も忍者 ?ってことはその兄弟子の俺も忍者?まじでか(゜Д゜)
道理であんなに師 匠がスパルタなわけだ。今思えば、あれは躾のための折檻じゃなくて拷問 だったんだな!やけに腹下すことが多いと思ってたら、あれは俺の内臓が 弱かったんじゃなくて毒食わされてたんだな!納得です。

納得したのはいーけど、俺これからどうすりゃいんだろ。忍者だけど仕事先決まってないよ。
小太郎はもうバリバリ働いてんのに。伝説の忍者とか言われてるらしい。いつのまに……!
それなのに俺ときたら、あっちへふらふらこっちへふらふら寝草なし。
小太郎んとこに遊びに行ったり鮮魚を求めて海へ行ったり酒を求めて南へ行ったり。遊んでばっかww


でもでも、聞いたってく れよ!俺にもこの間、ついに就職先が決まったんだよ!ヽ( ´¬`)ノ
ふふん、聞いて驚け。就職先はなんと!越後だ!
え?それだけじゃわからない?し ょうがない、もっと詳しく言ってやろう。俺の主君はかの有名な上杉謙信 公だぜひゃっほう!

謙信様ってばすげーべ?俺のこと一目見ただけで「そ なたは、このよのものではありませんね?」とか言われてバレたよ。
つか 「この世のものじゃない」って俺お化けみたい(・∀・)でも謙信様のすご いとこはそれだけじゃなくて、それを知った上で俺のことを雇ってくれた んだ!ようやくニート脱出だぜ!
しかもしかも!俺の意見を政に取り入れ てくれるんだ!普通は忍なんて道具扱いなのに、謙信様ってば太っ腹ぁ!


妹分も出来たし、謙信様は素晴らしいお方だし、弟は可愛いし!いやぁ、 俺ってば幸せもん。転生してよかったー!





蒔かぬ種は生えぬ






当代の風魔小太郎にとって、何よりも大切な存在は血の繋がらない兄だった。現在仕えている北条氏 政もそれなりに大切な存在ではあるが、彼にとっての兄はそれ以上の、まさに至高であると言っても 過言ではなかった。
今風に言うとヤンデレの混じったブラコン。それが風魔小太郎である。


今となってはたいした記憶など残っていないが、小太郎はとある地域の農村出身である。彼には家族 と呼べる者がいなかった。その赤い髪色のせいで捨てられ、鬼子と呼ばれた彼を育てていたのは目も ろくに見えない老婆だった。物好きな老婆は村人達に非難され、村八分にされかけるも、小太郎を拾 い世話をした。しかし風邪をこじらせ、老婆は小太郎が3歳になるまえに死んだ。
それからだ、小太 郎を取り巻く環境が激変したのは。村人達は老婆が死んだと知るやいなや、今までの鬱憤を晴らすか のように小太郎を虐げ始めた。男は暴力を振るい、女は蔑み子どもは石を投げる。幼いながらも死を 覚悟した小太郎の前に現れたのが、今現在兄者と呼んで慕っている彼である。
兄は渋る師を説得し、 小太郎を自分の弟分へ据え置いた。そして喋ることすらままならない小太郎に対して、かいがいしく 世話を焼いた。驚いたのは小太郎の方だ。今まで見てきた人間というのは、自分の髪とこの汚らしい 格好を見て拒絶し、排斥するというのに、この人間は違った。まさに衝撃。小太郎にとって、それは もはや刷り込みに近かった。老婆がもう少し長生きしていればまた違った結果になっていたのかもし れないが、ともあれ兄は物心ついてから初めて己に愛情を注ぎ慈しんでくれた相手だった。信じない わけがない。好きにならないわけがない。思い出フィルターで美しく捏造されている部分も多少ある が、小太郎にとって兄がいかに大切であるかお分かりいただけただろう。


さて、小太郎が尊敬と崇拝をしているのはなにも人柄だけではない。その戦闘術こそ、兄は誰よりも 素晴らしいと小太郎は常々思っている。
渋々ではあったが小太郎の居住を許した師は、それでもきち んと面倒をみていた。兄と同じように小太郎にも己の技を文字通り叩き込んだのである。教えはまさ に地獄だった。起きているときはもちろん、食事中も寝ている時間でさえも修行に当てられる。いっ そあの村で生活の方がましだったのではないか、と小太郎が思っても過言とはいえない。ところが兄 はその地獄の修行なぞ、まるで普通の生活の一部であるかのように過ごしていた。その上小太郎が怪 我をした時には心配を、毒にやられた時には看病をしてくれた。人間誰しも弱っている時に優しくさ れればその相手に多少なりとも好意を抱くものだが、小太郎はもともとの好意の上に更に好意が重な った。結果それが今彼が兄に抱く感情をつくる結果になったのである。



「小太郎、久しぶり。元気だったか?」

―――はい。兄者こそお変わりなく。

「ああ、謙信公は良くして下さるからな。お前はどうだ、ちゃんとやれているか?」

―――氏政様は良いお方ですので。兄者の心配にはおよびません。

「そうか、それはよかった。」



にこりと兄が微笑むと、小太郎は花を飛ばして上機嫌になる。彼の根底にはいつだって兄がいるのだ。
伝説の忍、風魔小太郎の実態。それは兄至上主義という、超絶ブラコンである。