オレの名前は
年は15で、将来は立派なハンターになることが夢だ。だから現在特訓中。




オレが住んでいるのは、山間にある村。
小さな村で、人口はせいぜい50人ぐらい。もちろん村人全員が知り合いで、家族みたいなものだ。
互いのことなら年齢性別関係なく理解し合っている此処は、 木を伐採して麓町に売り、あとは自給自足の平凡な村だ。


そんな平凡なオレの村に、一人の医者がいる。
レオリオだ。



レオリオは4、5年前にふらりとやって来た。
警戒するおっちゃん達にすぐに溶け込み、胡散臭いと鼻白むじっちゃんばっちゃんたちに和やかに話しかけ、
不安げなおばちゃんたちを笑わせ、1週間もたてばまるで昔から村に住んでいたかのように馴染みまくっている。
当時10歳だったオレも、なんだか兄貴ができたみたいで嬉しかったのを覚えている。


レオリオは一応医者だから、村に来た時からトレードマークのように薄汚れた白衣を着ている。
一応毎日きちんと洗濯しているらしいけど、洗い方が雑だし乾いた後も畳まずにその辺に放ってあるのでしわくちゃ。
まあ本人はそんなこと気にせずに着ているのだけれども。



そんなレオリオは、自分のことをまだ20代だって言い張っているけど、 どう見たって30代半ば……下手すれば40代のオッサンだ。
はっきり言ってちょっと老け顔かも。

だけど医者としての腕はそこそこあるらしく、よくいろんな村や町に診察に行っている。
この辺にはオレの村と似たような村がいくつかあるけど、 近くにいる医者はレオリオだけだからレオリオに頼るしかないのだろう。

でも遠く離れた街から診察の依頼がくることもある。
たまに難しい顔をして机に向かったりしているのを見ると、 ちょっとカッコいいな…なんて思ったりする
……そんなことを本人の目の前で言うと図に乗るから絶対に言わないけど。



「レオリオー」
「あぁん?ってまたお前か、。ったくレオリオ先生だろーが」
「だってレオリオ、あんま先生って感じがしないんだもん。それより薬くれよ。擦りむいた。」
「また修行か?ったく……んな傷つくるくらいならオレが見てやるっつってんだろ?」
「やだよ。だってレオリオよえーもん」
「何言ってんだよ。オレ様ははあの幻影旅団とも渡り合ったことのある男だぜ?」
「………」
「あっ!てめぇその顔は疑ってんだろ!」
「………そんな話を信じろって言うほうが無理でしょ」



レオリオはよく嘘をつく。


それもすぐにバレるような嘘ばっかり。

本人曰く、
「あの暗殺一家ゾルディックに乗り込んだことがある」だとか、 「あの大ハンター、ゴン・フリークスとダチだ」とか、いろいろ。
わかりやすい嘘ばっかりだ。

いい歳のオッサンのくせに、こんな嘘ばっかりついているからあんまり大人という感じがしない。
たまに話していると同い年なんじゃないかと錯覚してしまうことがあるくらい、子供っぽい――というか、大人げなかったりする。

まあ、顔は完璧にオッサンなんだけどさ。



「そういや、お前ハンターになりたいっていつも言ってるよな?」
「おう!だから毎日こうやって修行してるんだろ?」
「明日ダチが3人ほど来るんだが、ハンターなんだよ。そいつら」
「マジで!?」
「マジで。このオレ様がそんな嘘つくわけないだろ?」
「………(いっつもついてるくせに)」
「で、だ。会ってみるか?そいつらに」
「会いたい!本物のハンターなんて初めてだ!」



ハンターになると息巻いているオレだが、 実際にハンターを見たことがあるかと問われれば答えはNOだ。
いつか見たことのあるハンターはテレビの中だし、 他のハンターの情報はすべてネットかニュースだけ。

それにこんな平凡な村にハンターが来ることはまずない。
特殊な物品が採れるわけでもないし、珍しい動植物が棲息しているわけでもない。
だから、こんなチャンスは二度とない!



「でもレオリオにハンターの知り合いがいるなんて知らなかったよ」
「まあな。つーか、オレ自身がハンターだぜ?当然のことだろ」
「またレオリオの嘘が始まった……。もういい加減いい年なんだから、子供相手に嘘つくなよな。まったく……」
「嘘じゃねーって言ってんだろ!なんならライセンスだってあるんだぞ!ちょっと待ってろよ?証拠として今から見せてやろうじゃないか!」



そう言って机の中をごそごそと探し出した。

ここで一つ断わっておくと、レオリオの部屋は基本的に汚い。
まあ一ヶ月に一度村のおばちゃん達が掃除するからそこまで酷くはないんだけど、 引き出しやクローゼットの中は常にごちゃごちゃのぐちゃぐちゃ。

ハンターの証であるライセンスをそんなとこに突っ込んで放置しておくハンターがいるわけがない。
というか、聞いたこともない。
ハンターライセンスって肌身離さず持っていなくちゃいけないんじゃなかったっけ?
再発行不可の特殊なもので、 難関な試験に合格できた一握りの人間だけに与えられた最高権力みたいなものだって。

まあレオリオのことだ、どうせいつもの嘘か何かだろう。



「おっ!あったぜ、ほら見てみろよ!」
「……なんか、ペラペラなんだけど。これって普通のカードじゃないの……?」
「そーいうもんなんだよ、それは。ただのカードに見えるかもしんねぇけど、ありとあらゆる偽造対策が施してあるんだぜ?」
「……ふーん」



どっちにしろ、嘘臭いのに変わりはない。
だってレオリオだし。
こう言うとまたうるさいから黙っておくけど。

まあいいや、とにかく明日はついに本物のハンターに会えるんだ!
改めてそう考えると、興奮してくる。
どうやったら強くなれるのか、とか試験はどんなものなのか、とか聞きたいことは沢山ある。

何を聞くか、じっくり考えておかなくちゃ。
こんなところで油を売ってはいられない。



「じゃーなレオリオ、サンキュー!」
「おー」



さっさと擦り傷の薬をもらい、診療所を飛び出す。

カッと顔が赤くなり、頬が緩んでくるのがわかる。
きっとオレは今、満面の笑みを浮かべているのだろう。

小さい頃のクリスマス、サンタが来るのを今か今かと待ち構えるあの感覚。
明日が楽しみだ。

いったいどんなハンターがやって来るんだろうか。
背が高い?
若いのだろか。
もしかしたらしわしわのおじいさんだったりして。
女の人かも。


想像ばかりがどんどん膨らむ。どきどきだ。
そうだ、今日は早く寝て明日に備えなくちゃな。

ベッドにぼすんと倒れこんでも、俺はずっとニヤニヤしてた。













倒れる瞬間に思ったこと
(はやくこい、あした)