その日はまだ朝だというのに酷く騒がしかった。
いつものこの時間には穏やかな空気に包まれているというのに、
なんでよりにもよって今日はこんなにも騒がしいのだろう。
昨日は興奮したせいかなかなか寝付けず、結局寝たのが真夜中近くになってしまった身にはいささか辛いものがある。
まだ3時間も寝れてないのに……。
成長期の身体にはキツイ。
(もしかして、昨日レオリオの言ってたハンターの人達かな?)
でもそれは午後の予定のはずだったんだけど……。
それ以外で朝早くからこんなに人が集まる理由は何だろう?
誰かが山から下りてきたクマでも仕留めたのかな。
数年前に自称、さすらいの旅人が
3mは裕に超えるであろうクロズリウサギを仕留めてきたときも、こんな騒ぎになっていた。
あのクロズリウサギ、美味しかったなぁ……。
「なぁおじさん、どうかしたのか?みんなしてこんな朝早くから」
「ん?おおか。あれを見てみろ」
そう言っておじさんは山の上、上空を指した。
よく周りを見てみると、他のみんなも一定の方向を指差し喋りあっている。
いったい何があるっていうんだろう……?
疑問に思い、オレもそれに倣って空を見上げてみる。
するとそこには、
「……龍?つーか、ドラゴン?」
「やっぱお前にもそう見えるか」
まだ距離があるので断定はできないが、蜥蜴のような蛇のような爬虫類独特の形が遠目にも見てとれる。
……ドラゴンなんて初めて見たよ。
まだ距離は遠いのだが、特殊な動物や魔獣がいないこの当りではドラゴンが見られるだけでもちょっとした大ニュースだ。
そのせいか、みんなちょっと興奮気味。
それにしたって……
「なんなんだよ、あれ」
「何って、見たまんまのドラゴンだろ。ありゃ」
「レオリオ!」
いつものだらしない白衣姿のレオリオが、いつの間にかオレの後ろに立っていた。
村中が大騒ぎしているというのに、この老け顔のほら吹き医者は相変わらずだ。
だけど、みんなが慌てている中一人冷静な姿というのを見ると、やっぱりなんだかんだ言っても医者なんだなと思い知らされる。
以前、大雨が続いたときに土砂崩れが起きたことがあった。
それはたまたま下を通りかかったおばちゃんとじいちゃんをあっという間に飲み込んだ。
ギリギリで差の惨事を免れたおばちゃんの子供のおかげで事態はすぐに発覚した。
おばちゃんの子供が泣き叫び、ばあちゃんはショックで倒れた。
普段は優しいおっちゃん達も、怒鳴り声をあげて土砂をどかそうと必死になっていた。
怒声と悲鳴と泣き声、全てが入り乱れて現場は騒然としていた。
そこに現れたのがレオリオだった。
オロオロとしていたおばちゃん達に的確な指示を与え、やたらめったら力任せに掘り返すおっちゃん達を統制し、見事に二人は助け出された。
あの場面であそこまで行動できたのは、やっぱり冷静に素早くあの状況を把握することができたからだと思う。
オレはその冷静な医者に質問を投げかけてみる。
「レオリオ、あれが何なのか知ってるの?」
「はっきりとはわかんねぇけど、きっとティアノドラゴンだな」
「ティアノドラゴン?」
「ほら、この前テレビでやってただろ」
そう言われてやっと思い出した。
ちょうど1週間ほど前に、テレビの特番で見たのだ。
この村は山間にあるがテレビぐらいは映る。……3つしかチャンネル選べないけど。
ちなみにネットをすることも可能だ。……一つ一つの動作がかなり遅いけど。
今時の携帯は圏外なしが当たり前だから、同じ電子機器であるテレビやラジオ、ネットの電波が届かないはずがない。
そのテレビによると、確かティアノドラゴンの性格は獰猛で人の寄り付かない辺境の地に生息している。
鱗は光の角度によって様々な光を放ち、強度はダイヤモンドも超えるほどだという。
一枚が数千万円で取引されることから密猟者の後が絶えないという。
そのことから、数多く存在する魔獣の中で少数しか存在しないドラゴン種の中でも希少価値の高い絶滅危惧種だって……
「なんで、こんなとこ飛んでんだ!?」
「なんでだろうなあ」
慌てているオレに対してレオリオはのほほんとしている。
ああもう、人が慌てているときにこうも普段通りにされていると逆にムカついてくるな!
少しは慌てろっての!
「何のんびりしてんだよ!襲ってくるかもしんねぇんだぞ!」
「大丈夫だろ。きっとあれはオレのダチだ」
「は?ダチ?」
「おお」
……レオリオは、実は可哀想な奴なんだろうか。
あんなドラゴンが友達って……。
普通の人間の友達はいないのかな……?
そういえば、村の中でレオリオが患者の人以外と話している姿を見たことないし……。
そもそも友達を連れてくるってこと自体がなかったよな。
彼女とかもいないし。
あ、こう考えるとレオリオってかなりサミシイ人かも。
いや、でも相手はあのティアノドラゴンだからすごい奴になるのか?うん?
「……お前。今ろくでもないこと考えてるだろ」
「え、何が?」
「言っておくがな、ドラゴンじゃなくてドラゴンに乗ってる奴がダチだぞ?」
「え、そうなのか?」
「当り前だろうがっ!ったく、お前はほんと昔からよぉ……」
なんだ、レオリオとティアノドラゴンがダチじゃないのか。
まあ、よくよく考えればわかることだよな。
このレオリオにそんなすごい芸当ができるわけがないし。
たまに村の近くの山に出没するキツネグマとかミカゲゴモリとかとは仲がいい(?)みたいだけど。
よくじゃれつかれてるし。
あ、そっか
「レオリオ、ティアノドラゴンに乗ってるダチってもしかして……」
「ああ、昨日言ってたハンターだぞ」
「マジ!?やっぱスゲー職業なんな、ハンターって!こんなことまで出来るなんて…!」
「あー…まぁ、あいつが特別なだけなんだがな」
「 ? ハンターになればみんなできるんじゃないのか?」
「滅多にいないだろうな、出来る奴なんて。オレだってできねぇし」
「レオリオだもん。できなくて当たり前だろ?大体ハンターかどうかも怪しいってのにさ」
「こんの…」
そうこうしているうちに、ドラゴンがすぐ近くにまで来ていたらしい。
気がつけば周りの人はみんな避難し、辺りにはティアノドラゴンの鳴き声が響き渡る。
だれか逃げる時に一声ぐらいかけてくれればよかったのに!
レオリオの知り合いが乗ってるってわかってても、ちょっと怖いかも。
近くに来るとますますでかいし……。
く、喰われたりしないよな?
大丈夫だよな?
「レオリオ―!」「ー!」
ドラゴンから若い男の声が聞こえてきた。
どうやらレオリオの友達が、ハンター達が降りてくるみたいだ。
というか、本当にティアノドラゴンに乗ってきてたんだ……。すごい。
いったいどんな人たちなんだろう?
いったいどんなハンターなんだろう?
まだ春が青かった頃
(こどうが、たかまる)