バサバサと翼を鳴らしながらドラゴンが近付いてきた。
どくどくと、心臓が脈打つのがわかる。

―――ああオレ、緊張してんだな。

そう思い苦笑する。

やがて、ドラゴンがゆっくりと降り立った。



「久しぶりだね、レオリオ!それに、イタッ」
「お前さっき言ったろー!?がまだ俺らと会ってなかったらどうすんだよ!」
「というか、そちらの可能性のほうが高いな」
「うう、忘れてた……」




ドラゴンの背から下りてきたのは、三人の男だった。
レオリオに声をかけて、その後の言葉をつむぐ前に隣の人にど突かれてる。

意外と………若い?
レオリオの友達っていうぐらいだから、三十路を超えた厳ついオッサンを想像してたのに……。
なんか町とかで普通に歩いていそうな感じだな。



「なんだよ、お前ら一緒に来たのか」
「途中でクラピカが歩いているのを見つけたんだ。だから一緒にと思って」
「ああ、乗せてもらったんだ」
「オレは最初っからゴンと来る予定だったし。つか、ここんとこずっと一緒にいたからな」
「相変わらず、お前らはコンビ組んでるのか」
は、やはりまだか?」
「ああ。そんな様子はねぇな」




レオリオと、その来客達はしばらくの間談笑していた。
本当に仲が良さそうだよな……。

ああいうのを見ると、羨ましいなぁと思う。
ここは小さな村だから、もちろん子供も少ない。
子供はたったの8人だし、オレ以外はみんなまだ一桁の年齢。
もちろん、一緒に遊ぶことだってよくある。
だけどなんとなく、いつの間にかオレはその輪の中から外れている。

別にオレだけ年が離れているから、という理由で仲間外れにされているわけではない。
ただ、何となくそういう流れにいなるのだ。
オレはオレで修行しているし、あいつらもそれがわかっているから邪魔をしたりはしない。
オレだって遊びに誘われた時には一緒に遊ぶし。

でも……互いに理解して、信じあって、喧嘩しながら競い合ったりできる相手がオレにはいない。
今のとこそれに一番近い関係にあるのが9才のドイルとレオリオだけど、なんか違うんだよなぁ……。



「っと、そうそう、お前らを紹介してくれってやつがいんだ」


しばらくしてオレの存在を思い出したのか、レオリオがやっと声をかけてきた。

どうしよ、スゲー緊張する!



「村のやつなんだが、ハンター目指してんだよ」
「へぇ!んじゃオレらの後輩ってわけだな」
「久ぶ、違った、はじめまして!」
「はい、はじめまして!です!えっと、あの……」
「ん?ああ、こいつらの紹介がまだだったな。黒い頭がゴン、銀髪がキルア、金髪がクラピカだ」
「頭の色で紹介すんなよな、おっさん」
「おっさん言うな!大体、お前もオレと同じ20代だろうが!」
「ギリギリ20代のくせに」



その会話を聞いてギョッとした。
髪の色で紹介したレオリオではなく(や、その紹介の仕方はどうよって思ったけどさ)オレが驚いたのはそのあとのセリフだ。



「レオリオって本当に20代だったのか!?」
「お前、信じてなかったのかよ!」
「そりゃあこの顔じゃあなー」
「それもあるけど、レオリオって嘘ばっかりつくから……」
「お前というやつは……昔っから成長しない奴だな。例えば、どんな嘘をついたりしてるんだ?」
「実はハンターだとか、幻影旅団と渡り合ったことがあるとか、ゾルディック家に乗り込んだことがあるとか……。
 とにかく、ありえなさそうなことを沢山です」



オレの言葉を聞いて、3人は何とも言えない微妙な顔をした。
オレ、なんか変なことでもいったのかな……?



「なんだか……」に敬語使われるって変な感じだね」
「ああ……」「そもそもこいつも体験してるってのにな」
「4割嘘6割真実といったところだな」「これから、だがな」
「え、嘘じゃなかったんですか!?」
「とりあえず、レオリオはハンターだよ」
「ええっ!?」
「ライセンス見せただろうが……」「そしてお前も一緒に受けただろうに……」



はぁ……とレオリオが溜息をつきながらぶつぶつ言ってる。
そんなこと言われたって、普段だらしないレオリオを見ているオレに信じろっていうほうが無理だろ!

知ってるか?
仕事のない休日のときのレオリオは診察用のベットに寝っ転がって、エロ本読みながらビール飲んでるんだぜ?
そりゃ休日の過ごし方にケチをつけるつもりはないけど、いくら休日でも急患はある。

―――診察室で酔っ払ってていいのかよ!

って以前本人に聞いてみたらノンアルコールビールだから大丈夫だって言ってたけどさ……。



「だってペラペラだったし、引き出しの奥に突っ込んで置いてあったし……。クレジットカードの方がよっぽど大事にしまってあるじゃんか!」
「レオリオ……お前はハンターという職業をなんだと思ってるんだ!」
「いいじゃねぇか。もともと学費免除目的で取ったんだしよー。それに、クレジットカードだって大切だろ?」
「レオリオってそんな理由でハンター試験受けたのか!?」



クレジットカード云々の話よりも、その前の言葉に驚きだ。
学費免除が目的とは何ともケチくさい。
というか、よくそれだけの理由でハンター試験受ける気になったな……。
それで合格しちゃうところもすごいけど。

実はハンター試験って結構簡単だったりするのかな……?



はどうしてハンターになりたいの?」
「憧れているハンターがいるんです!」
「へええ、どんな人?」
「小さいころラジオで聞いただけだから名前はわからないんだけど……」



オレがまだ7歳ぐらいの頃、ラジオからハンターの特集みたいなものが流れていた。
なんでもそのハンターは若干12歳でハンターとなり、
数々の新種動物新種魔獣の発見・保護、そしてキメラアントの討伐隊参加など、様々な功績を残している若くして優秀なハンターなのだと。
ハンター専用ゲーム"グリードアイランド"を初めてクリアしたのもこの人だそうだ。
現在は世界各地を飛び回っているらしい。

その特集を聞いたから、オレはハンターという職業に憧れを抱いた。
名前も知らない、そのハンターのようになりたくて。



「そのハンターとは、もしかして………」



オレの話を聞いてクラピカさんが呟いた。
もしかして、知ってるのかな?同じハンターなんだし……。
少しばかり期待で胸が高鳴る。
インターネットで調べようとしても、極秘人物ということで詳しいことは何も知り得なかったその人。



「知ってるんですか?」
「あー、きっとこいつのことだぜ?」



そう言ってゴンさんの方に顎をしゃくった。
そっかあ、ゴンさんがあのハンターだったんだ!
って、あれ………は?
今キルアさん何て言った?

『きっとこいつのことだぜ』

うん、こう言ってた。
聞き間違いなんかじゃないはずだ。
"こいつ"っていうのはゴンさんで、ということはゴンさんが"あの"ハンターってことで…………



「うえぇぇ!?ゴ、ゴンさんだったんですか!?」
「あはは、そうみたいだね。話を聞く限りじゃ」
「え、あ、あの!ゴンさんのフルネームってもしかして……」
「ゴン・フリークス」



ゴンさんに代わってキルアさんが答えてくれた。
え、………マジで?

憧れの人が目の前に―――決してテレビの画面や写真じゃない、本人がいる。













全ては瞬きの間に
(ゆめじゃ、ないよね?)



「うわー、なんかにこんなキラキラした目で見られると変な感じだ」
「まだ、俺らと会ってねぇんだよねー」
「しかし、時期的にこの頃じゃないのか?」
「たぶんな。ま、そのうちそのうち」