あの後オレは急いで村を出て山を下り、町へと向かった。
そして、さっきの考えが正しいんだって知った。
拾った新聞紙の日付は、オレがいた時代のおよそ10年前。
「………ありえない」
新聞紙を持ったまま茫然と呟いた。
怪訝そうに振り返ったおばあさんに曖昧に笑っておく。
過去へタイムスリップ?え、おかしいし。
オレ何かした?キルアさんとレオリオあたりがドッキリを企画したとか?
ないない。これだけ手の込んだこと、できるはずがない。
じゃあここは過去の世界。
周りに頼れる人はおらず、正真正銘オレ一人。
「……はぁ」
クラピカさんは様々な状況下においての対処法を教えてくれたけど、さすがにタイムスリップした場合の対処法なんて教えてくれなかった。当たり前か。
とりあえずどうすべきかわからなかったオレは、図書館へと行ってみた。
それっぽい題名の本をパラパラと流し見る。でもたいしたことはわからない。
ていうかオレ、本読むのあんまり好きじゃないし。
気付けば空は赤く染まって、腹はぐぅと悲鳴を上げた。
「どーしよ……」
修行中だったから所持金はゼロ。
財産といえば、今着ている服だけ。これじゃパンも買えないよ。
そもそもここは過去なんだから、オレの身分を証明するものだって何一つありはしない。
え、働くこともできない?
「……どうしよ」
同じセリフを再び呟いて、大きなため息を吐いた。
あーあ、漫画だったらここで声をかけてくれる優しい人がいたりするんだけどなぁ……。
そんな都合のいい展開が起きるはずもなく、その日は結局やる気もなくなって公園のホームレスに混じって眠ることにした。
あ、一つだけ収穫があった。新聞紙って意外にあったかい。
+ + +
あれから半月。オレはホームレスのおっちゃんたちに混ざって生活している。
気のいいおっちゃんたちはオレがまだ若いからか、いろいろと世話を焼いてくれた。
ていっても、ご飯や仕事を分けてくれるわけじゃない。分けてくれるのは知識だけ。
ダンボールハウスの作り方とか、要注意人物とか入っちゃいけない区域とか。
ゴンさんたちの修行とはまた違った意味で役に立つ知識だ。
オレはそんなおっちゃんたちのおかげで、とりあえずなんとか生きている。
不満があるとすれば風呂に入れないことくらいかな。そろそろ水浴びにも限界があるし。
「おーい、!」
「あ、クロフツさん。どうしたの?」
「なに、ちょいと顔合わせをな」
「新入りの人?」
「いいや?年に二三度くる渡り鳥みたいな奴だ。おい、アラン!紹介するぜ、こいつが新入りのだ。、こいつはアラン。まぁ、それなりに役立つ奴だ」
「それなりって……まぁいいけどよ。アラン・ダインだ。よろしくな」
「あ、です」
黒いくせっ毛の男、アランさんと握手する。
なんか雰囲気が違うなぁ……。
アランさんは他のおっちゃん達よりもちょっと若い。
ぱっと見のレオリオと同じくらいに思える。
それに無精髭が生えているけど、そこまで汚い恰好をしているわけでもない。
なにより、ホームレス暮らしをしていると体臭が目立ちやすいっていうのに、アランさんからはその臭いがない。
……何やっている人なんだろ?ほんとにホームレスなのかな?
そんな疑問を感じながら話していると、アランさんの方から疑問をぶつけてきた。
「なあ、嫌なら答えなくともかまわんが」
「なに?」
「はどうしてここに?ストリートチルドレンというわけでもないだろう」
「うーん……信じてもらえなくてもいいんだけど、オレ未来から来たんだ」
「……未来?」
「うん、サーザダイムーオを奉る祠のせいでね」
「ようは話せない事情があんだよ!ったく、そのくらい察しろよなアホアラン」
「アホ言うな」
その会話に思わず苦笑する。
だよなぁ、信じてもらえるなんて思ってない。
だってオレ自身まだ信じたくないことだし。どんなSF漫画だよ。
だからここでのオレのポジションは、ワケアリの家出少年。あんまり嬉しくない称号。
「ほんとだって。雷が鳴って、祠の中にいたらタイムスリップしたんだよ」
「わかったよ、もう聞かねぇって」
両手を振るクロフツさんに対して、アランさんはいたく真剣な顔をしていた。
「なぁ、その話、詳しく聞かせちゃもらえないか」
「べつにいいけど……」
あまりにも真剣に言うので思わず目をぱちくりさせる。
そしてオレは、半月前に起きたことを詳しく話した。
って言っても、オレ自身もよくわかってないからたいしたことは話せないんだけど。
+ + +
「サーザダイムーオってのは、古代ガワターク語で時を超える者という意味だ」
「時を、超える……」
「そう。今から1200年ほど前の文明だ。そしてオレはそのサーザダイムーオについて調査していた」
「調査?」
「ああ。オレは遺跡ハンターだからな」
「え!?アランさんってハンターだったの!?」
「一応な」
わ、こんな短期間にまたハンターの人に会っちゃた。
世の中ハンターは意外と多いのかもしれないなぁ。
話によれば、サーザダイムーオはもともと人の名前だったらしい。
1200年前、ある村を大飢饉が襲った。
人々が飢え、伝染病が蔓延り死に絶えゆくときにサーザダイムーオは現れた。
彼は人々に食糧と秘薬を与えた。すると弱っていた人々はたちまち回復し、飢饉を乗り越えることができた。
人々はサーザダイムーオに感謝し、崇め、信仰した。
それから100年間、村で大きな問題が起きる度にどこからともなくサーザダイムーオが現れ解決していった。
サーザダイムーオはいつしか村の守人となった。
ところがある時代の村長がサーザダイムーオを私欲に使おうと、わざと問題を起こしサーザダイムーオを呼び寄せた。
それを知ったサーザダイムーオは怒り、村長に罰を下すと二度と村に現れることはなかった。
人々はサーザダイムーオに戻ってきてほしい一心で供え物を捧げ、祈った。
やがてそれは神話に形作られ少しずつ姿を変えていき、現在のような祭に変化していったという。
ちなみにオレが知らなかっただけで、神話もちゃんと伝承されてたんだって。
「学者たちの一部は、サーザダイムーオが未来から来たのではないかと言っている」
「未来!」
「だから豊富な食糧もあったし、最新の医療薬を飲ませることができた」
「ほ、ほんとにそんなことがあるの?」
「確証はない。が、一番有力な説だ」
「ていうことはもしかして……」
「ああ、あの祠が鍵だ」
おそらくタイミングと、状況と、様々な条件が偶然にも重なり合った結果に起きた事象。
「なにが原因なのかを調べる。そうすればお前だって向こうに帰れるだろう」
「ほんと!?」
「ああ。さぁて、研究チームを呼び寄せるか」
これから忙しくなるぞー。
そう言って立ち上がったアランさんはどことなく楽しそうに見えた。
雲がこぼれ落ちてくる
(なにか、よかんがした)