「……と、言うわけです。質問はありますか?」



ヤバい、私塾めっちゃ楽しい。

母上が見つけてくれた私塾は吉田松陽っていう、なんか聞いたことがあるような気のする名前 の男の人がやってるとこだった。しかも若いんだよ。イケメンだよ。晋助くんが入る塾だから 、てっきりウチみたいな金持ちばっかりがいるとこかと思ってた。けどそんなことなくて、学 ぼうとする子どもなら貴賎問わず受け入れているんだって。しかも不要なお金は取らない。松 陽先生男前!だから勉強は全然難しくない。ほんとに基本のことだけだし。でも雑学混じりに 教えてくれるし、わかりやすいからめっちゃ楽しい。あ、そうそう当初の目的通りちゃんと友 達も出来たんだよね。髪が長くて超キレイ系。最初女の子かと思っちゃったくらい。友達第一号の名前は、小太郎くんです!



「どうした晋助、何かわからぬことでもあったか」
「ううん、大丈夫。それよりも山行こう山!タヌキが出るって!」
「タヌキ鍋か?」
「違うよ!」



見に行くに決まってんじゃん!タヌキなんてあたし見たことないんだよね。それに今まで家か ら出してもらえなかったから色んなことがすごく新鮮で楽しい。はやくはやく!と小太郎の袖 を引っ張って急かす。草履を履いて、さあ行くぞ!と意気込んでいたら先生に止められた。



「小太郎、晋助。山には最近天人が出るそうですよ」
「戦ですか」
「ええ。それと……鬼も出るようです」
「鬼!」



小太郎が興奮した様子で声をあげた。でもあたし的には鬼よりもっと気になる言葉がある。… …あまんとってなに?動物?いや、でも戦するって言ってたから違うよね。なんだろ、全然わ かんない。けどなんか「あまんと」は常識的な言葉らしい。だってわかんないことにはいつも 誰かが質問したりするけど、今回はないし。うーん、聞いたことはあるような気がするけど… …。今更聞くのはちょっと恥ずかしいよね。だってあたし、優等生なのに。よし、家で調べる ことにしよ。それでもわかんなかったら、後で松陽先生にこっそり聞きに行こ。



「晋助、山はやめて違うところへ行こうぞ」
「じゃあ川に行く?」
「魚釣りか!良いな!」



魚釣り……あたしやったことないけど面白そうかも。



「晋助、魚釣りには活きの良いミミズをつけるんだ」
「えぇー……ミミズ……」
「なんだ怖いのか?ならば俺がつけてやろう」
「やった!」



そんなわけで、毎日けっこー充実してます。





夢と現実の境目






「今日から皆さんと一緒に勉強する、坂田銀時くんです」



仲良くして下さいね。そう言う先生の横には、銀髪に赤目、無表情の男の子。なんだっけ、ア ルビノっていうんだっけ。ウサギみたい。にしてもちょっと暗いなぁ銀時くん。興味津々のみ んなからの質問にも一切答えないし。てかそれよりも「さかたぎんとき」って名前、どっかで 聞いた気がするんだよね。あーどこだったかなー。喉まで出かかってるのに出てこない!って 一人で悶々としてたら、いつの間にか質問タイムは終わって授業が始まっていた。先生が講義 する中、ちらりと視線を向けると、銀時くんは初日にも関わらず堂々と寝てた。刀抱えて。……うーん、なんかデジャヴ。

授業が終わっても銀時くんは相変わらず無表情のままで、ぼーっと外を眺めていた。新しい学 友に興味津々だった他のみんなは、反応が悪いからか銀時くんを放っていつものように遊んで いる。あたしはまだ思い出し中で、ずっと考え込んでいたら小太郎に腕をぐいっと引っ張られた。



「晋助行くぞ」
「どこに?」
「新入りの所だ!」



え、とあっけに取られてるうちにずるずると引きずられた。強引ですね、小太郎くん。銀時く んはそんなあたしたちを胡乱気な眼差しで見上げる。小太郎は興味津々といった様子で質問をぶつけた。



「お前、鬼らしいな!」
「ちょ、小太郎!?」



直球過ぎる!確かにさっき他の子が鬼みたいとか言ってたけど!普通本人に聞く!?デリカシ ーがぶっ飛んでるよ!銀時くんが怒ったんじゃないかと見てみれば、特に表情を変えることな くふい、と視線を元に戻しただけだった。そんな銀時くんの様子に、ふんっと鼻息を荒くした 小太郎は正面に回り込み、気合いの入った声で言った。



「俺と友達になろう!」



直球だね!2回目だけど直球だね!小太郎ってば突然過ぎるし、銀時くんは目をぱちくりさせ ている。あたしはといえば、どうしたものかとおろおろしていた。と、友達ってこうやって作 るもんだっけ……?まあいっか、と興奮する小太郎に合わせてあたしも正面に回る。



「俺は桂小太郎、こっちが高杉晋助だ」
「よろしくね!」



にっこにこと笑うあたし達を銀時くんはぼーっと見上げている。やがて口を開いた。



「カツラ高すぎ?」
「ん?発音がおかしくないか?」
「まあまあ」
「かつら……ヅラ?」
「ヅラじゃない、桂だ!」



小太郎ツッコミが素早いね。ていうかこのやり取り聞いたことあるような………あれ、銀魂?銀さんにヅラ、え……あたし高杉?うっそー……まじで?